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学校では教えてくれない、リーダーシップをとるための思考力とは?

May, 08, 2012

株式会社ビジネス・ブレークスルー

大前 研一 氏

皆さん、こんにちは。大前研一です。 これから2つのことについて私の経験に基づいた考えをお伝えしたいと思います。みなさんが今後、学校を出て就職した後、どういった世の中になっていくのか、そして、その世の中で生き抜いていくためには、どういう準備を学生のうちからやっておけば良いのかについてです。

これからの世の中がどう変わっていくか

今、世界は10年前とは大きく様変わりしています。10年前といえば米ソ冷戦体制が終焉し、これからはアメリカが全ての世界の勢力を集結して、アメリカ一極時代(シングルヘゲモニー)に突入すると言われていました。その状態が50年は続くのではないかと言う人も多かったのですが、実のところはそうではなくなりました。さらに10年前にあたる1985年にはビル・ゲイツがウィンドウズのバージョン1を世に出し、インターネットは1990年代に急速に広がった。一方で、1998年には中国で朱鎔基が首相になり地方分権が進んで、世界中からお金が中国に流れ込む状態がおこりました。気がついてみると、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)が経済の大きなウェイトを占めるようになっています。歴史を振り返ればわかるとおり、これからの世の中がどうなっていくのかは不確実です。不確実である以上、世界のどこに出ても通用する能力を身につけることを従来よりもより一層まじめに取り組まないといけません。日本の中だけ見ていてはいけません。日本の中だけでの評価基準で高いスコアを得ていたとしても、まったく意味がなくなる可能性があるのです。

日本だけ見ていてはダメ。世界のどこでも通用する力とは?

従来は日本も国自体が伸びてたため、日本国内にも十分な成長機会がありました。そのため日本語でしっかり学校で勉強していれば良い時代だったのです。しかし、今は学校で教えてもらえることで社会に出て役立つことはほとんどないと思った方が良いです。学校の先生も、もっといえば文部科学省も今の21世紀に世界がどうなっていくのかを理解できていないのですから当然です。一方で、中国やインド、あるいはポーランドといった中欧諸国に行ってみると、ほとんどの人が英語で授業を受けたがっています。コミュニケーションの能力としては、英語で仕事をやり抜く力を身につけなくてはどうしようもないということに彼らは気づいているのです。また、もうひとつ重要なことは「論理(Logic)」です。私は「問題解決(Problem Solving Approach)」の教育に前職のマッキンゼー時代から取り組んでいます。論理的思考とは、事実を積み上げていって人にわかりやすい形で結論をだしていくやり方です。あくまで事実に基づきながら、異なった意見を持つ人たちと議論し、新しい問題解決の突破口をみんなの見ている前で打ち出していく力です。

日本の教育では教えてくれない思考力

これはリーダーシップといわれていますが、日本の教育の中では全く教えられておりません。基本的な共通言語は、事実を積み重ねる議論の仕方です。AはBですね、BはCですね、したがってAはCになりますね、という話です。このような言い方ができること自体が、実は英語よりももっと基本的な世界の共通言語なのです。しかも、AはBですと主張するときに、自分の意見を言うのではなく、客観的な事実を根拠にするわけです。つまり、ファクトベースでの議論(事実に基づいた議論)を展開するのです。また、反対意見があれば十分に聞いてみて、自分の今の考えと照らし合わせた上での妥協点を探ることで、相手も受容性が高まる。そして、みんなで決めたことはやっていこうという流れになり、結果的には誰よりもアクション実行のスピードが速かったりや実行能力が高まるのです。そういう企業や個人が、リーダーとして大きな成長の機会を捉えて伸びていくのです。これは世界のどこにいても同じことだと思います。こうした「事実に基づいた議論の進め方」はギリシア時代から世界で最も共通のものとして考えられていますが、このための準備は日本の学校では全くやっておりません。高校時代に論理学をやっているところはありません。英語だけチャラチャラうまくなっても、発言内容が事実に基づいていなく納得性がない、意見を言っているだけで聞く耳を持たないということになると、英語がうまいことが逆にあだになります。ですから、最低限の語学能力を習得する必要はありますが、より重要なのは、「ファクトベースによる問題解決のためのProblem Solving Approach」なのです。

問題解決力は、学習すれば身につくもの

そもそも、世界的にみて日本が今競争力を失っているのは、問題解決の能力が欠如しているからだと思います。社会人になって10年経っても20年経っても、先輩から教わったとおりのことをやっているだけで、本来もっている力が全体的に発揮できていないことが原因です。先例に従うことが重要なのではなく、問題解決の能力が大切なのです。その能力は学習できます。その気になれば半年や1年ぐらいあれば世界のどこでも通用するスキルを身につけることができるのです。みなさんも一日も早く学生時代から問題解決力の習得のためのトレーニングを始めて、会社に入る頃にはある程度の論理思考や問題解決の土地勘があるというようになれば、みなさんのビジネスパーソンとしての人生の成長曲線は非常に頼もしいものになると思います。

株式会社ビジネス・ブレークスルー

Interviewee

大前 研一 氏

おおまえ・けんいち

株式会社ビジネス・ブレークスルー

代表取締役社長

1943年、福岡県生まれ。マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インクに入社し、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任する。現在は経営コンサルタントのほか、ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長、 カリフォルニア大学ロサンゼルス大学院政策学部教授などを務める。日本や海外での著書も多数で、真の生活者主権の国家実現のため、新しい提案やコンセプトを提供し続けている。