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「世界中の失明をなくす」 個人の力で世界は変えられる。世界にインパクトを与える大志を持て

Oct, 11, 2015

株式会社アキュセラ

窪田 良 氏

「世界中の失明をなくす」シアトルで難病治療薬の開発に挑む日本人の生き方に学ぶ

世界に1億2000万人の患者がいる眼の難病の治療薬開発に挑み、世界から失明をなくそうとしている日本人起業家がいる。米国・シアトルの自宅地下室からバイオベンチャーを創業したアキュセラ社の窪田良氏だ。
同社は、米国で50代以上の人たちの中途失明原因のトップを占め、日本でも患者が増えている「加齢黄斑変性症」(網膜中央部の黄斑が変性し視力が低下する病気)を治療する飲み薬の開発を進める。現状では、末期患者向けの眼内注射しか治療法がないため、治療対象も注射を扱える専門医に診てもらえる先進国の人たちに限られていた。窪田氏は世界中の失明をなくすためのベストな方法として、医師の技術が必要な注射でもなく、冷蔵保管が必要な点眼薬でもない、内服薬の開発という難題に挑む。開発に成功すれば、市場規模は5000億円以上と言われ、久々の大型薬候補として世界的に注目されている。
窪田氏のキャリアは普通ではない。慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学大学院に進み、その研究過程で緑内障の原因となる遺伝子「ミオシリン」を発見。一流の研究者として世界的に名が知れ渡った。また、眼科専門医として虎の門病院や慶應病院に勤務し、緑内障や白内障など1000を越える手術を執刀。VIP患者の担当を務めるなど、眼科医としての実績を積んだ後、より根本的なレベルで失明原因を解明するために博士研究員および助教授としてワシントン大学に赴任した。そこで発見した独自の技術をコアとして現在のアキュセラ社を創業。以降10年以上、起業家としての人生を邁進する。
新薬開発の成功確率は3万分の1で、開発期間が10〜12年と言われる製薬業界。すでに50%の確率で製品化が実現する臨床試験の最終段階・フェーズIIIに突入し、今まさに歴史的なイノベーションを生み出そうとしている。日本人がアメリカで起業して成功する先行事例として、ドジャースの野茂英雄氏が野球界に与えたような大きなインパクトと勇気を日本の起業家に対しても与えてくれそうである。
2013年5月には半生を綴った著書『極めるひとほどあきっぽい』(日経BP社)を上梓され、若い人たちへのエールを送る窪田氏に、Goodfind読者世代の皆さんに向けて伝えたいメッセージを聞いた。

今の日本に足りないもの:イノベーションを促す多様性とリスクをとること

経済的にも社会的にも成熟した日本が国際社会の中で一定の影響力を保持していくには、サイエンスやテクノロジーの世界でイノベーションを起こし続けるしかありません。世界から必要とされる日本をどう実現するかが、国際社会における日本の役割であり、日本の成長戦略になると思います。そのためにも、現在のような多様性の低い状態から、人材の多様化を進め、異質なものを許容していく社会を作ることが、今の日本には必要だと感じています。
日本の大学生は、リスクに対して極端に抵抗する傾向があると聞きます。「せっかく良い大学に入ったのだから」とリスクが小さそうで安定に見える選択をしようとする人が多いのかもしれません。しかし、その選択が安定であるということは思い込みに過ぎません。どこにも安定を保障してくれるものはありません。世間で安定と言われている職業や会社も全て疑った方が良いでしょう。そもそも、安定よりも「変化に対する耐性」がどれだけあるかが断続的な成長には重要です。常に新しいものに触れ続けることで学びのベロシティが上がるので、人一倍成長し、結果的に安定を手にできると思います。
また、何を基準に「良い大学」と言っているのか。世界ランキングで見ると日本の大学は決して高い評価を得ていません。井の中の蛙にならずに、能力が高いなら身近な山で安住することなく、もっと高い山を目指してほしいと思います。そのためにも、自分の人生の目標は何かを考え続けてください。高い山を登ることで見える景色が広がり、選択肢も広がります。何かしらの分野で世界の人に価値をもたらす側になるのだ、という人生の目標を設定してみれば自然と目線は上がります。

やってみなければわからない

何事もやってみなければわかりません。やれないのではないかという先入観をいかに除去するかが、イノベーションにつながります。難しいという先入観を取り除いて、やってみると意外とできてしまうことも多いのです。とにかくやってみることをせず、うまくいかない理由を考えるだけの人は、イノベーションに対して無価値です。 まずやってみるというマインドを持つためには、その仮説が取り組むに値するものである必要もあります。正しい答えよりも正しい質問が大事です。一生をかけて解く価値のある問題を設定することで、イノベーションを起こすモチベーションを高めることができるのです。
また、正しい戦略は一つではないし、「人との差異」はイノベーティブなことを成す上で武器になります。だから、敢えて人と違う道を行く方が結果的に早い道になるのです。努力の方向が間違っていては報われることはないが、正しく努力をしていれば断絶的にフェーズが変わる瞬間が来るはずです。間違いなく言えるのは、成功は続けた先にしかないということです。理想を追い求めてあれこれ悩むあまり第一歩を踏み出さないのは明らかにもったいないことです。時間をかけるほど情報収集量は増やせますが、ゴールに達する時間も遅くなる分、リターンは減ります。限られた時間の中で最善の選択をする方がリターンを最大化できるのです。

10年ごとに別の一流を目指す

おおまかに振り返ると20代で学者、30代で医者、40代でベンチャー経営者と私のキャリアは変わってきました。道を変える選択をする際には、達成した何かを捨てる必要もあります。勇気を持って価値あるものを手放せば、さらに大きなものを手に入れることができます。好奇心の赴くまま数多くの物事に挑戦することは、思考のクロストレーニングにつながり、結果的に道を極めることにもつながります。 そのためにも、まずは好きなことを見つけてほしいと思います。すぐに見つける必要はありません。小さい頃の泥遊びと同じで、様々な異質なものへの耐性を身につけることが大切です。自分の中にレパートリーを確保するために、数多くの人に会って話をしてください。海外に行ってみるなど活動の幅を広げてみるのも良いでしょう。アンテナをはって感度を高めていれば、いろいろな人から影響を受けて才能を発揮できるようになるでしょう。一人でも多くの人が、日本の枠を超えて世界中の人のために活躍するようになることを願っています。

株式会社アキュセラ

Interviewee

窪田 良 氏

くぼた・りょう

株式会社アキュセラ

会長、社長兼CEO  医師・医学博士

1966年兵庫県出身。慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学大学院に進み眼科学研究において博士号を取得。その研究過程で緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見、「須田賞」を受賞。眼科専門医として緑内障や白内障など1000を超える手術を執刀。虎の門病院勤務などを経て2000年より米国ワシントン大学に眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。独自の細胞培養技術を発見し、2002年4月にバイオベンチャー、アキュセラ社を自宅地下室で設立した。「飲み薬による失明の治療」を目指し、現在、加齢黄斑変性、ドライアイ、緑内障など様々な眼科治療薬を開発する。2013年、加齢黄斑変性の治療薬は、臨床第二相後期/第三相試験に突入した。