資本主義経済からシェアリングエコノミーへ

AirbnbやUberの台頭により、世界中で注目を集め始めているシェアリングエコノミー。日本における法的整備や活性化を進めるシェアリングエコノミー協会の代表理事2人が目を輝かせて語る可能性と未来、今この業界に飛び込むべき理由とは。

Jun, 15, 2016

株式会社ガイアックス

上田 祐司 氏

シェアリングエコノミーとは

■重松 シェアリングエコノミーをひと言で説明するなら、これまで個人や法人によって所有されていた遊休資産(活用されていない資産)を可視化し、共有する新しい経済の仕組みです。代表的なカテゴリとしては、空間(空き部屋、空き駐車場のシェア)・乗り物(カーシェア、ライドシェア)・モノ(衣服、日用品のシェア)・スキル(子育て、家事手伝いのシェア)・カネ(クラウドファンディング)などが挙げられます。このような個人間の取引が実現したのは、スマートフォンという共通ツールとSNSアカウントという個人認証パスポートの普及によるところが大きいでしょう。これにより、手軽に“空き部屋”や“車の空き状況”をシェアでき、それを利用したい人とマッチングされ、決済までスムーズに完結されます。さらに公開されている情報や利用者のレビューによって個人の特定が可能になり、セキュリティ面に存在していた懸念も解消されつつあります。こうした背景から、シェアリングエコノミーという交換・共有の仕組みが世界的なトレンドとして一気に広がってきているのです。有名なシェアリングエコノミーサービスの一つ、空き部屋を個人間で貸し借りするAirbnb(エアビーアンドビー)が生み出す経済効果は日本だけで2000億円超、世界全体では10兆円ほどあると試算されています。

シェアリングエコノミーが世界をどう変えるのか?

■上田 シェアリングエコノミーの醍醐味は、それを通じて新たに生まれるコミュニティにあります。シェアリングエコノミーという仕組みがなければ生まれ得なかったコミュニティが誕生しているのです。例えば、家事代行や育児支援のようなスキルが地域内でシェアされることで、ご近所同士の繋がりが新しく芽生えています。

■重松 スペースのシェアにおいても、利用者とオーナーとのコミュニティができています。私はスペースマーケットという、古民家から野球場まで、あらゆるスペースを法人や個人向けに貸し付けることができるサービスを運営しているのですが、実は千葉の房総半島にある私の実家もスペースマーケットに登録してあります。そこで母が利用者の方々に味噌汁を提供したらしいのですが、これがとても好評で。それが評判になってレビューが上がったり、リピートに繋がったりしています。

■上田 私も無料でホームステイ先を提供するサービスを利用して、何名か海外からの旅行客を宿泊させたことがあったのですが、東日本大震災で原発事故の影響が心配されたとき、海外から2通も「俺の家は広いから逃げてこい」というメールをもらいました。こういった温かい人と人との繋がりが、シェアリングエコノミーを通じて生まれているのです。

■重松 また、シェアリングエコノミーによって、誰もが手軽に売り手になることができます。誰もが売り手であり、買い手でもある。その境界線が溶けてしまったのです。年齢も地域も関係ありません。誰でも、いつでも、どこでも商売ができるようになる。国が掲げる「一億総活躍社会」が現実のものになる気がします。

■上田 さらにシェアリングエコノミーは、公共サービスが抱える問題も解決していきます。米国では「シビックテック」と呼ばれるサービスが多く登場しています。例えば、地方においては車での移動が不可欠ですが、人口の減少などを原因に、バスやタクシーなどの運行を制限せざるを得なくなっています。そういった中、相乗りサービスであれば、もともと走っている車に利用者が相乗りするだけですので、行政の財政に負担を与えることはありません。

■重松 公民館の運営や商店街の空き店舗の利用といったスペースのシェアも、これまで行政が運営していた部分です。ここにもシェアリングエコノミーの入り込む隙間があります。先日、ある地域の廃校がコスプレイヤーの撮影会に使われたりもしました。こういったニッチなニーズとのマッチングを機会に、地方に人を連れてくることが可能になっています。また、訪日外国人の増加も、シェアリングエコノミーには大きく期待されていることです。

市場のダウンサイジングではなく、市場価格を適正化する仕組み

■上田 学生の皆さんから「シェアリングエコノミーは市場のダウンサイジングに繋がるのでは?」という声をしばしば耳にします。私にとっては、なぜそれを気にするのか不思議です。値段が下がったとしても、それは「サービス提供者が、利用者に価値提供した価格以外のお金」、つまりは「仲介手数料として支払われていた金額」が除かれただけです。シェアリングエコノミーは、モノやサービスの価格から中間マージンの存在を省き、ブラックボックス化されていた価格取引を滑らかにしただけです。

■重松 そこで発生する商売は、これまで以上にホスピタリティが問われる“本物のサービス”になります。雑なサービスに対しては容赦なく厳しい声が寄せられるでしょうし、値下げを余儀なくされることもあるでしょう。一方で本当に良いモノにはニーズが集中し、頑張った分だけリターンも得られます。つまりは市場の原理「神の見えざる手」が働きやすい環境といえます。

■上田 シェアリングエコノミーにおいては、お金儲けが目的ではなく善意でサービスを提供する方もいらっしゃいます。さまざまな個人が参加する経済の仕組みですので、一時的に旧来の市場価格と乖離するケースもあるかもしれませんが、最終的には真っ当な競争を経て適正価格に落ち着くものと考えています。

あらゆるニーズが瞬間的にマッチングされるオンデマンド経済の到来

■重松 これまでの法人から個人への商売は、ややもすると一方通行の取引でしたので、どんなに多くても法人数×個人数の掛け算が取引の最大数になります。それがシェアリングエコノミーによって個人が売り手にも回りますので、n×nへ、無限の組み合わせが考えられます。

■上田 売り手と買い手の区別がなくなり、きっと今までは存在し得なかった取引が発生してくるでしょう。例えば、夏祭りの屋台でビールの行列があったとしたら、並んでいた買い手が売り手になってビールを注ぎ始めるようなアルバイトが瞬間的に発生するかもしれません。

■重松 将来的には、パッと思ったことをすぐ誰かに頼める、オンデマンド化された経済圏が生まれるでしょう。スマホさえあれば、困ったと思った瞬間にそれができる近場の人とマッチングされ、仕事を依頼できる世界です。

■上田 そのうちきっと、歩道を50歩以上歩くことがあり得なくなるでしょうね。スマホで希望を出せば、車がサッと停まり、わずかな金額で相乗りさせてもらえる世の中になるはずです。見方を変えると、自家用車の97%が稼働していない社会をつくり上げた資本主義はある意味凄まじいと思います。4人家族に歯ブラシが20本くらいあるのと同じですからね(笑)。そう考えると現代は個人が必要以上にモノを持ち過ぎていると思います。

■重松 そうですね。これからは、モノのつくり方も変わってきますね。例えばハウスメーカーはシェアを前提とした家づくりになる。住民は1階の空きスペースを近所の人に貸し出す。すると、その賃料で自らの家賃が返せてしまうわけです。物流や保育施設のあり方も変わるでしょう。また、働き方もどんどん変わってくるはずです。東京のオフィスに出勤しなくても、インターネットがつながっていればどこでも働ける社会に近付いていくと思います。

インターネット以来の革命、若いということが財産になる領域

■上田 働く業界としてシェアリングエコノミーを考えたとき、2つのメリットがあると思います。1つは、これまでの仕組みでは解決し得なかった社会課題を解決できるポテンシャルを秘めていること。もう1つは、シェアリングエコノミーという新しい仕組みで稼ぐ個人が続々と登場する中で、各サービスのプラットフォ―マーも前例のない成長を遂げている点です。アメリカでは、この領域から評価額10億ドル以上の新興企業、通称「ユニコーン」も多く誕生しています。これほど収益性の高い急成長業界は他にないでしょうし、若いうちに大きな勝負をかける価値があります。社会貢献と急成長の両方を味わえる素晴らしい業界と言えるでしょう。

■重松 基本的に人は成長業界で働かないと成長できません。働き方を企業に依存する時代から、個人が自ら稼ぐ時代へと変わりました。その中で生きる力、サバイブする力を付けなければいけません。また、成長ビジネスの原則として、ルールが変わるタイミングに勝負できるポジションに身を置くことが重要です。シェアリングエコノミーは勃興期にある今だからこそ、ルールをつくる側に回れるチャンスがあるのです。東京五輪が開催される2020年ごろには、シェアリングエコノミーが当たり前のように社会のインフラになっているでしょう。世の中が変化していく感覚やワクワク感をその中心で体験できる滅多にないチャンスです。

■上田 「海外に比べて日本のシェアリングエコノミーは遅れている」という声も聞きますが、Airbnb以外の海外サービスは日本に深く入りこめていない状態です。その理由は法規制もありますが、シェアリングエコノミーが今までのネットビジネスと違い、人の文化や生活に極めて密着したサービスだからです。例えば、商店街や地方自治体のスペースを町内会の集まりに使うといった取引に、海外サービスはそう簡単に入り込めませんから。そういう意味では、日本のシェアリングエコノミー領域にはまだまだチャンスがあるのです。業界に飛び込んでくるなら、まだ身軽な新卒のタイミングが最適でしょう。特に仕事ができる人、能力に自信のある人は勝負すべきですよ。

シェアリングエコノミー協会とは

2016年1月、シェアリングエコノミーのプラットフォーム整備や活性化を目的に創立。本インタビューの上田氏と重松氏が代表理事を務める。主な活動は、各プラットフォームの安全性向上につながる勉強会や広報、プラットフォーマー用の保険の整備、国や地方自治体との法的な整備など。2016年5月現在で60社超が加盟している。

熊本地震の際は、協会会員の中から、Airbnbが無料で宿泊場所を提供したり、nottecoが被災地でのライドシェア費用を負担したり、軒先パーキングが被災者や支援者、ボランティアらに駐車スペースを無料で提供したりと、シェアリングエコノミーを活かした支援が続々と始動した。

あわせて読みたいおすすめ書籍

ガイアックスのインターンに挑戦する

株式会社ガイアックス

一般社団法人シェアリングエコノミー協会

株式会社スペースマーケット

Interviewee

上田 祐司 氏

うえだ・ゆうじ

株式会社ガイアックス

代表執行役社長

1974年大阪府茨木市生まれ。同志社大学経済学部卒業。起業を志し、ベンチャー支援会社に入社。1999年、24歳のときに有限会社ガイアックス(現・株式会社ガイアックス)設立。代表執行役社長に就任し、30歳で上場を果たす。好きな言葉は「効率は愛」。現在、シェアリングエコノミー協会代表理事を兼務する。

Interviewee

重松 大輔 氏

しげまつ・だいすけ

株式会社スペースマーケット

代表取締役

1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2000年NTT東日本に入社し、法人営業・企画・プロモーション等を担当。2006年に当時10数名のフォトクリエイトに参画。新規事業・広報・採用に従事し、東証マザーズ上場を経験する。2014年スペースマーケット創業。現在、シェアリングエコノミー協会代表理事を兼務する。