科学が生んだ人工流れ星が東京の夜空を駆ける

「流れ星を自分でつくりたい」東京大学で天文学を学び、ゴールドマン・サックスを経て起業した岡島礼奈氏が、人工流れ星を夜空に描くSky Canvasプロジェクトを始動させた。彼女が空に描く、未来のエンターテインメントとは。

Apr, 09, 2016

株式会社ALE

岡島 礼奈 氏

大好きなエールビールを飲みながら、都心でも流れ星を見てみたい

2001年の秋、大学の同期とレンタカーを借りて、しし座流星群を見に行きました。夜空に降り注ぐ星の数々に圧倒されました。ただ、流星群は車で山奥へ行かなければ見ることができません。そのため、大好きなエールビールは飲めません。「もし人工的に流れ星をつくり出すことができたなら」。そう友人と語り合ったのを覚えています。

その後、2008年3月に大学院を卒業し、お金を稼ぐ方法を学ぼうとゴールドマン・サックスへ入社しました。しかし、リーマン・ショックの影響で私のいた部署が無くなってしまいました。じゃあ、それならと2009年に今まで温めてきた「人工の流れ星をつくる」というプロジェクト= Sky Canvasプロジェクトを始めようと実行に移しました。

流れ星というのは、宇宙の小さな塵が大気圏に突入したときに生じる摩擦熱で光っています。つまり、小型人工衛星に「流星源」となる特殊な金属の粒を詰め込んで宇宙に打ち上げ、正確な速度・方向に放出すれば理論上、流れ星を人工的につくり出すことができるのです。この流れ星は上空60~80kmのあたりで光るので、首都圏だと約3000万人の方々が観測できます。

宇宙を舞台とした未来のエンターテイメント

人工的に流れ星を生み出すことで、夜空でさまざまなエンターテインメントが描けるようになります。それはときにアートとなり、舞台を盛り上げる演出となり、世界観を強化する道具にもなります。例えば、大好きなアーティストのライブ中、曲に合わせて流星群が空を駆ける。サッカーの試合で応援していたチームが勝利をした直後、流れ星が光る。テーマパークの主人公が杖を振ると、さまざまな色の星が同時に瞬く。数千万人が同時に空を見上げて感動を共有する、そういった瞬間を生み出すことをALEは目指しています。インターネット上の仮想体験では得られない、五感を使って感じる生の体験を提供します。

「宇宙を楽しむ」大学や研究機関との合同チーム

このSky Canvasプロジェクトは、決して私一人で進めてきたわけではなく、大学や研究機関の協力に支えられて実現に向かっています。初めに相談させていただいたのは、首都大学東京システムデザイン学部航空宇宙システム工学コースの佐原宏典教授でした。佐原教授には、流星源の軌道計算や、どんな装置を積んだ人工衛星をつくれば良いかを検討していただいています。また、佐原教授には、帝京大学理工学部航空宇宙工学科の渡部武夫講師を紹介していただき、粒子の放出装置や供給装置の開発をお願いする運びとなりました。

しかし、装置の試作と実験を進めても、流星源ができないことには人工流れ星はつくれません。2013年から3回にわたって行ってきた発光実験では、肝心の流星源が明るく光らず苦戦していました。そのような折、新聞記事に取り上げられたプロジェクトを目にして新たにチームに加わってくださったのが、日本大学理工学部航空宇宙工学科の阿部新助准教授でした。星の明るさを表す「等星」でいうと、実験当初の流れ星は3等星程度の明るさしかありませんでした。それが今では都会の空でも明るく輝くレベルにすることまで成功しています。数字にしてマイナス0.86等星(参考:北極星は2等星、シリウスはマイナス1.5等星)の明るさです。

「生命はどこから来たのか?」の謎に答える。流れ星の科学的意義

人工流れ星プロジェクトは純粋なエンターテインメントとしての試みだけではなく、研究としての科学的意義も持ちます。気球でも人工衛星でも観測できない範囲である上空60~80kmに流れ星を流すため、これまで分からなかった大気の挙動を知ることができます。たとえば、大気の季節変動などを読み取ることができれば、高層大気物理学の発展に寄与する可能性があります。

また、パンスペルミア説という、生命の起源に関する仮説があります。それは、生命は宇宙に多く存在しており、地球の生命の始まりは、地球以外の天体から発生した微生物の芽胞が地球に漂着したという説です。天然の流れ星の成分を研究することで、このような説も検証できるようになるかもしれません。

2018年―Sky Canvas TOKYO

今後の目標は、2018年冬に、人工流れ星を皆さんにお見せすることです。それまでに、色のバリエーションも増やし、幅広い演出を可能にすることで、エンターテインメント性を高めていければと思っています。2018年冬、東京の夜空に流れ星が瞬きます。好きな人と、好きな場所で、ビール片手に夜空を見上げて待っていてください。

株式会社ALE

Interviewee

岡島 礼奈 氏

おかじま・れな

株式会社ALE

代表取締役社長

東京大学理学部天文学科卒、同大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号取得理学博士。在学中にサイエンスとエンターテイメントの会社を代表取締役として設立。卒業後、ゴールドマン・サックス証券戦略投資部にて、債券投資事業、PE事業等に従事。2009年より、新興国ビジネスコンサルティング会社を設立、取締役。2011年9月に株式会社ALEを設立。