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世界の頭脳へ ― ビッグデータとAIがもたらす創造と破壊 ―

境界の溶けた世界で、情報と資本のあり方を根底から覆す

Mar, 11, 2016

株式会社メタップス

佐藤 航陽 氏 ・ 荻原 充彦 氏  ほか

資本に代わる新たな価値基準が生まれつつある

― 近年、インターネットや人工知能を中心としたテクノロジーの発達が著しいですね。お金を取り巻く社会システムがどのような変化を迎えているか、お聞かせください。

■佐藤 お金はもともと、目に見えない価値を可視化して保存することにより、物々交換をよりスムーズにおこなうために作られたものです。紀元前1600年頃の貝殻に始まり今に至るまで姿を変えながら発展してきたお金ですが、実はその存在が社会の中心となったのは産業革命が起きた300年前に過ぎません。生活の中心に工業が据えられ、生産手段をもつ資本家と労働者階級が生まれたことで、生産にも生活にも、お金がなくてはならないものとして認識されるようになったのです。すると人々は、お金自体を効率的に生み出す方法を考え始めました。価値を保存・伝達するための手段であったお金が次第に目的化されたのが分かります。これが資本主義の誕生です。

そう考えると、現在当たり前だと感じているお金の姿や経済のあり方、人々の価値観であっても、歴史が示すように、この先変化していくことが予想されます。貝殻だったお金がテクノロジーの進歩とともに金属や紙となったように、ITの進歩によってその姿が電子化されてもおかしくありません。実際、オンライン上では仮想通貨が流通を始めています。また、資本主義下ではお金が労働のモチベーションとなっていましたが、インターネットが発達した現在では、価値をやりとりする手段が多様化した分、必ずしもお金だけをモチベーションに生きていくとは限りません。たとえば、Facebookの「Like」は、他者からの承認をモチベーションに転換し、行動を促す装置としてはたらいています。

このように、個人が価値基準を自由に選択できるようになり、貨幣の価値が相対的に落ちつつある今、資本主義に代わる新たなシステムが求められています。こうした必要性に応えるため、我々メタップスは旧来のお金以外の価値基準をデータによって生み出し、新たな経済圏を創りだす構想を描いているのです。

メタップス経済圏を創りだす

― 新たな経済システムをつくる上で、具体的にどのような事業を展開しているのですか?

■荻原 経済をより円滑に回すためのアプローチとして、直近では、手数料無料のオンライン決済サービス『SPIKE』を立ち上げました。というのも、近年ではインターネット上での購買活動が活発化しお金の移動も年々増しているものの、金銭取引の「摩擦」となる手数料には、まだ課題が山積みだと考えています。他社の決済サービス手数料が2・5から3%であるのに対して『SPIKE』の手数料を無料にしたのも、特にEコマース(EC)を手がける企業にとっては決して軽くない手数料の負担を無くしたいと考えたからです。手数料無料は決済ビジネスにおいては不可能だと言われていましたが、フリーミアムモデルを採用することで可能にしました。リリースから1年3ヶ月で約10万件の登録を達成、毎月利用者が増えている状況です。

― 前例が存在しなかったビジネスモデルに挑戦できたのはなぜでしょうか。

■佐藤 収益の8割は全顧客の2割が生む、という経験則が、決済の領域でも成立すると確信していたからです。実際、予想通り、ハイエンド企業が相当量のトランザクションを占めることで、フリーミアムモデルは十分に成立しています。さらにいえば、私たちの収益源は決済だけではありません。EC企業が事業を通して得た売上は電子マネー『SPIKEコイン』に交換でき、それを使ってECサイト『SPIKEマーケット』で事業に必要な商材を購入することもできます。ここに、オンライン上で完結するSPIKE経済圏が生み出されています。

また、私たちが押さえているのは、キャッシュアウトフローだけではありません。そもそもメタップスの主軸事業は、アプリの収益化のサポートをする『metaps』です。これは企業のキャッシュインフローとなるアプリの集客・分析を、世界で2億人分のデータをもとに、ビッグデータ解析と人工知能技術を駆使して支援する、アプリ開発者向けプラットフォームとなっています。キャッシュインフローとキャッシュアウトフローを押さえ、マーケティングから金融、ECまでを一気通貫でおこなうことで、企業活動に必要なバリューチェーンを一貫して提供できることがメタップスの本質的な強みです。

キャッシュレス社会が到来すれば、誰が何を買ったかは全て分かるようになります。そうすれば、非効率なマーケティング施策は無くなるでしょう。メタップスは決済サービスの顧客にマーケティング支援サービスも合わせて提供できるため、事業同士のシナジーも十分にあります。さらには、マーケティング支援や決済等といった、ビジネスに必要なバックエンドの役割を果たすビジネスに徹すれば、マーケット動向をいち早くキャッチできるという利点もあります。そのためサービスを一つのプラットフォームにすることは、市場変化の激しい現代において必要不可欠な生存戦略なのではないでしょうか。

テクノロジーがあらゆる境界を溶かす

― テクノロジーがあらゆる業界を侵食しています。今後、どのような変化が訪れると思いますか。

■佐藤 規制や法によって保護された領域以外では、業態の変更は間違いなく起きるでしょう。まず、今後5年間でテレビ局と銀行の役割が大きく変わります。たとえば、既に若者はテレビよりもYouTubeを観ていますし、セブン-イレブンなどの事業会社自身が投資やファイナンスをする例も現れています。今後、テクノロジーの進歩によって業界同士の境界線は次第になくなります。10年経てば家電が、15年経てば自動車が、今とは違う姿へと変わっているのではないでしょうか。

■フェイ 業界だけではなく、国境の概念も次第に消えていくことが予想されます。メタップスが情報と資本にこだわるのは、この二つが最も業界や国境を越えてスケールしやすい性質を持っているからです。グローバリゼーションの歴史を振り返ると、お金がまずグローバル化し、次にGoogleによって情報がグローバル化されました。世界60億人に直接リーチできるこの領域には、莫大なビジネスチャンスが潜んでいると考えています。

■溝手 メタップスは世界8ヵ国に展開し、海外売上高が全体の6割を占めます。13以上の国籍のメンバーが働き、4ヵ国語以上が社内で飛び交う環境です。ただ、フェイも言うように国境の概念そのものが薄れているので、私たちは自社を「グローバル企業」と意識したことはなく、むしろ無国籍企業だと捉えています。ただ、商習慣は簡単に国境を越えて浸透するものではないので、国ごとに最適なアプローチを採れるよう現地メンバーに大半の権限を委譲しています。一方、メタップスの世界観は日本のヘッドクオーターから発信し、各地域で理解されやすい形に翻訳して浸透させていきます。

■フェイ オンライン上だけのコミュニケーションでは、求心力が強くならないことも事実です。そのため年に一度、世界全拠点のメンバーを日本に集め、グローバルカンファレンスを開いて戦略の共有をしています。互いの顔や性格を把握することでよりコミュニケーションを促進するため、飲みニケーションも怠りませんし、カンファレンスのときには思い出に残るようなイベントを企画するように努めています。生まれも言語も専門領域も越えて、様々な人から刺激を受けることができる稀有な環境がメタップスにはありますね。

株式会社メタップス

Interviewee

佐藤 航陽 氏

さとう・かつあき

株式会社メタップス

CEO

大学在学中にメタップスを設立。検索エンジン、ソーシャルメディア、ECのマーケティング事業を立ち上げ収益化。2011年よりアプリ収益化プラットフォーム『metaps』を開始し、アジアを中心に世界8カ国で展開。2013年より『SPIKE』の立ち上げに従事。

Interviewee

荻原 充彦 氏

おぎはら・みつひこ

株式会社メタップス

SPIKE 事業責任者

大和総研の情報技術研究所にてネット・通信分野に関する論文執筆・講演活動を行う。その後、大和証券グループによる銀行設立プロジェクトに参画し、2012年にDeNAのEC事業戦略室および決済代行事業にて新規事業の立案に従事。2014年、メタップスに参画。

Interviewee

婁 飛 氏

ロウ・フェイ

株式会社メタップス

執行役員 中華圏事業戦略責任者

中国生まれ。東京大学工学部卒業後、マッキンゼーアンドカンパニーに入社。ハイテクから小売りまで幅広い分野のプロジェクトに携わる。2011年にDeNA中国の副社長として、mobageプラットフォームを中国展開し、プラットフォームの収益化に貢献。2013年より参画。

Interviewee

溝手 亘 氏

みぞて・わたる

株式会社メタップス

事業統括部 グローバル事業戦略チーム ゼネラルマネジャー

2005年、株式会社リクルート入社。その後グリー株式会社にてスマホビジネスを立ち上げ、ロンドンオフィスの立ち上げに携わる。AOI Pro.に転職後は東南アジアで事業開発を行う。2013年よりメタップスに参画。