20代の『リスク論』

Mar, 11, 2016

アイペットホールディングス株式会社(旧:アイペット損害保険株式会社)

山内 宏隆 氏

ファーストキャリアは知名度よりロールモデルで選ぶ

■岩瀬 当時、まだ無名だったボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)に、新卒3名のうちの1人として入社しました。司法試験に合格していながら、周囲の反対を押し切って選んだのは、米国滞在中に優秀な学生の就職事情とロールモデルの存在を知ったからです。その頃のハーバード大学ロースクールには、政府機関や学者、投資銀行といった弁護士以外を選ぶ学生も多く、中でもコンサルティングファームに行くことが尖ったキャリアと考えられていたのです。そして帰国後に参加したBCGのインターンで、一緒に働きたいと思えるメンバーと出会い、入社を決意しました。一方で弁護士事務所の大人たちは、当時の私にとっては魅力的に映らなかったことを覚えています。何をするかではなく、誰とやるかが重要です。

■山内 私も初めは国家公務員になるつもりでしたが、OB訪問をした際にそこで働く大人に違和感を覚え、公務員試験も受けずに留年し、学費を稼ぐためのアルバイトに励む毎日を送っていました。BCGのインターンに参加したのも、実は10万円という報酬目当てでした。その後、入社して出会った伝説的なコンサルタントに声をかけられ、ドリームインキュベータ立ち上げへの参画を決めました。

リスクが無いことに気づけば挑戦は容易い

■山内 キャリア選択は、考えれば考える程リスクが目につくので、重要なことだからこそ直感で決めました。就活や結婚など、重要かつ正解のない決断は直感的にすべきです。ただ、やるからにはどんな仕事も7年は継続してください。コンサルティングファームに3年だけいるのはおすすめできません。何かの会社にいたから、その後のキャリアが楽になるなんてことはなく、本当に大切なのは競争力をつけること。私はドリームインキュベータに15年残りましたが、これだけ続けると競争力のあるキャリアが築けます。

■岩瀬 そもそも20代の皆さんにリスクはありません。まだ何も持っていない分、失うものも無いからです。ライフネット生命の立ち上げ期にも、「2、3年経っても会社が上手くいかず、大手に就職した同期に差をつけられる」という、とても格好の悪いワーストシナリオが脳裏をよぎりました。しかし格好悪いことだけがリスクであり、得られるものは遥かに大きいと気付いてからは、挑戦が怖くなくなりましたね。私のキャリア選択は一貫して、周囲からもったいないと言われ続けてきました。ただ、10年後から見て一番挑戦しがいのある企業は、いま現在評判の良い企業とは限らないものです。

コンサルタントは専門職、経営者は総合格闘技

■岩瀬 BCG在籍時には経営を理解した気になっていましたが、実際は知らないことばかりでした。たとえば銀行からお金を借りるときに必要な交渉や、従業員へのストックオプションの出し方など、例を挙げればキリがありません。経営者になるためにコンサルタントを経る必要は必ずしもないのです。私自身、元はといえば名コンサルタントになりたいと思っていましたし、山内さんがペット保険会社の経営者になろうとは夢にも思いませんでした。

■山内 コンサルタントと経営者とは根本的に異なります。格闘技に喩えるなら、コンサルティングはボクシングで、経営は総合格闘技。ストリートファイトに近いですね。よく調べてみると、マッキンゼーやBCG出身で成功している経営者の比率は特別高くはありません。また、成功している方を見ても、コンサルティングで身につけたスキルによって成功したというよりは、そもそもタフで地力が高かったからコンサルティングファームに雇われた、というのが真相に近そうです。経営は総合格闘技のようなもので、毎日新しい発見があってとても面白いですよ。

 

差別化することで味わい深い人生経験を積む

 

■山内 これから社会に出る方々は、少しだけ人と違う経験をしましょう。私は灘高時代、隣に数学オリンピック金メダルの人がいるような環境にいて、その道に進んでも幸せになれないと悟りました。そういった天才とは違い、私はあくまでも凡人。それでも今は、周りに同じ業界、同じ戦略で仕事をしている人がおらず重宝されています。企業戦略で言う「差別化」が凡人や弱者の基本的な戦い方です。ちなみにペット産業はアジア全体で10兆円程まで伸びるポテンシャルに満ちた、先行者利益の大きい市場です。差別化で勝てるフィールドを見つけるためにも、常日頃からおもしろそうなものを探し、ときめきを忘れずにいましょう。継続して熱中できる、人とは違う何かを見つけてください。

■岩瀬 私も若いときは数字の大きいことをしたかったのですが、仕事の規模に優劣はないと考え直し、小さくても自分自身が与えるインパクトの大きい仕事に手深く携わりたいと思うようになりました。小さい会社で働くのも悪くないですよ。大企業と違って、経営との距離が近く会社と自分との一体感があります。私自身、副社長、社長と進んできましたが、こつこつ努力すれば経験が浅くても経営チームにジョインするチャンスがありますしね。世の中を変える味わい深い人生が体験できると思います。

アイペット損害保険についてもっと詳しく知る

アイペットホールディングス株式会社(旧:アイペット損害保険株式会社)

ライフネット生命保険株式会社

Interviewee

山内 宏隆 氏

やまうち・ひろたか

アイペットホールディングス株式会社(旧:アイペット損害保険株式会社)

代表取締役

東京大学法学部卒業後、ボストン コンサルティング グループを経て、ドリームインキュベータの創業に参画。執行役員としてベンチャー企業への投資・育成等に15年程取り組み、多くのIPOを実現。2011年2月アイペット損害保険の取締役に就任、2015年6月より現職。

Interviewee

岩瀬 大輔 氏

いわせ・だいすけ

ライフネット生命保険株式会社

代表取締役社長

埼玉県生まれ。幼少期を英国で過ごす。東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院を上位5%の成績で修了。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。