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事業創出ベンチャーとして、日本経済を再活性化させる方法論

継続的に付加価値の高い事業を生み出す組織の条件

Mar, 11, 2016

株式会社Speee

大塚 英樹 氏

日本経済を再活性化するキーとなるメガベンチャーの役割とは

多くの方がご存知の通り、日本の経済は、大企業や政府、大学、ベンチャー、投資家といった多数のプレイヤーが複雑に相互作用しながら発展してきています。経済全体が成熟期を迎えた昨今においては、各産業分野を改めて活性化させるにあたり、各々がこれまでとは大きく変容した役割を果たすこととなると思います。すでに日本のスタートアップのエコシステムも、多くの関係者の努力によって、我々が創業した時から比べればかなり恵まれた状態になっていると思いますが、これからは更に、各プレイヤーがそれぞれの得意領域を最大限活かし、コラボレーションしていかなければ高いイノベーションの発生頻度を実現させることは困難なのではないかと思います。

しかしながら、伝統的な経済構造に身を置いてきた大企業は、多くの分野を革新しつつあるITのノウハウには乏しいと言えると思います。特に日本は経済を牽引する大手企業の中にWeb出身の企業の数が圧倒的に少ないという事実があります。そこで、ハブ的な存在として必要とされるのが、ITを前提とした付加価値を生み出し続けるITネイティブのメガベンチャーであり、まさに今Speeeが目指している組織体でもあります。

新規事業を継続して創出するための方法論とは

メガベンチャーという言葉の定義は非常に曖昧なものではありますが、個人的には、国内におけるIT系のメガベンチャーはまだ10数社程度しかいないと考えています。さらにいえば、その多くは90年代に設立された企業ばかりで、2000年以降に設立されたベンチャーのうち、日本経済を支えるだけの存在感があるメガベンチャーはほとんどいない状況です。その原因は、既に大半の市場が成熟しており、十分な大きさのホワイトスペースが無くなってしまったがために、ベンチャーが新規参入する場合には明確な技術優位性を持ったアプローチを取るか、ニッチ戦略が選ばれる傾向がどうしても高くなるからだと考えています。

そのためSpeeeは、現時点においては特定の市場のみに着目するのではなく、ITを基軸として複数の市場をまたぐイメージで、事業を継続的に生み出していく構想を描いています。これは、従来にもBtoB(対法人)領域、BtoC(対消費者)領域の双方で事業を立ち上げてきたSpeeeならではの戦略であると言えるかもしれません。国産ベンチャーが新規事業を継続的に生み出し、メガベンチャーに至るためには、このように異なった領域で複数の軸足を創れるようにすることは有効な方法の一つだと考えています。

周到な実験と分析を繰り返すことで勝ち筋を見極める

創業事業と同等のインパクトがある事業を新たに立ち上げ、「複数の軸足」を獲得するためには相応のチャレンジが必要です。当然、チャレンジにはリスクが付きものですから、リスクをとれる状態を生み出すには、チャレンジに耐えられる基盤を作ることに尽きると思います。我々の場合は、BtoBの創業事業を磨いていくことで実現してきました。   

Speeeは創業時、大企業をターゲットとしたモバイルSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)コンサルティングを創業事業に選びました。ひとたびヒットすれば爆発的に成長するBtoC事業ではなく、収益の成長率では劣るBtoB事業から始めたことには理由があります。というのも、BtoCの領域ではサービスの短寿命化が進んでおり、収益が中長期では不安定になりがちです。一方、BtoB領域であれば、ビジネスの特性上、安定基盤を作ることができるのです。実際、Speeeの創業事業は、大企業向けにサービスを展開していたこともあり、継続して高い収益性を実現してきました。それと同時に、大規模なWebメディアをコンサルティングしていたことで、メディア運営そのものに関するノウハウも蓄積でき、徐々にBtoC領域のメディア事業を立ち上げていくことができた変遷があります。

そして現在では、BtoB領域のWebコンサルティング事業とBtoC領域のメディア事業が同水準に並び、2つの軸足を持つ組織へと成長しています。このように性質の異なった領域における事業を複数持つと、その後は事業間で共通する本質的な成功要因をつかむことができるため、事業開発のスピードを早めることが可能だと考えています。

とは言うものの、ここまでの道のりが単調だったわけではありません。新規領域への参入当初は、本当に苦労を重ね、自分たちの力不足を何度も感じました。それらの挑戦を通じて、学んだことは、自分たちの既存事業で培った強みを3―4割程度は残し、6―7割は完全新規な部分というバランス感覚を持って挑戦を繰り返すこと、なんとか勝ち筋が見えてくるということです。それくらい自社にとっての新しい領域への挑戦は本当に難しいものだと捉えています。

連続した事業創出を可能にする、三つのメソッド

組織が絶えず事業を創出していくためにも、メンバー一人ひとりが事業を生み出す最低限の実践力を養うことが必要不可欠だと考えています。Speeeでは、半期に一度開催されるメンバー立案型の事業創造プログラム「Entre」や、役員×メンバーコラボ型の事業創造プログラム「Summit」を通して事業機会を見つけています。そこで生まれたアイデアの種は、役員直轄型の事業創造プロジェクト「Board+」へ持ち込み発芽させる仕組みです。この三つのメソッドは、先に述べたWebマーケティング・メディア(スマートフォンアプリ)それぞれの事業部単位でも同様に引き継がれています。それゆえに、事業を創出する文化は会社規模が拡大していくに従い、より強い文化になってきています。

事業を成功へ導くのは最終的には『想い(Will)』です。これに尽きます。『強いWill』が事業責任者に芽生えていなければ大きな成功はないと信じています。とはいえ、強い『想い』や『Will』頼みで上手くいくほど簡単ではないのも事実。よって、前述したような様々な仕組みで最低限の事業創造のエッセンスを体得した事業創造人材にあふれた、イノベーティブな組織であり続けたいと考えています。

次なる挑戦に選んだ事業領域は「医療(ヘルスケア)領域」

既存の2領域に加え、新たに挑戦する事業領域として、より社会的インパクトの大きな医療(ヘルスケア)分野への挑戦を選択しました。ただし、この分野に溢れる課題を解決するには、これまで確立してきた方法論だけでは全くもって不十分だと感じています。それでもなお医療にこだわるのは、産業革新に貢献することがベンチャーの責務である以上、人口減少や超高齢化社会といった国家的課題の解決に挑戦できる事は事業家冥利につきると考えるからです。

近年では、2025年問題に備えて、在宅医療機関や厚生労働省が掲げる「地域包括ケアシステム」(※「Fact01」を参照)が注目されています。地域における医療・介護のサービス向上が急務となる中で、コンビニよりも数が多いにも関わらずIT化が進んでいない地域診療所には、革新の余地が十分にあります。現在はまだ構想段階なので詳細は控えますが、Speeeでも、実際に様々な診療所に足を運んで問題点を洗い出した上で、クリニックへのコンサルティングをおこないながらソフトウェアを刷新していくアプローチを考えています。

もちろん、診療所のIT化には課題も多く存在します。IT化が遅れているには遅れているなりの理由が根深くあるからです。それらをブレークスルーするためには、優れたソフトウェアが提供できなければ話になりません。そのため直近では、技術顧問としてRuby開発者のまつもとゆきひろ氏を、開発部顧問として元クックパッド技術部長の井原正博氏を迎えました。その他にも続々と実力派のメンバーがこの事業に集まってきてくれています。専門領域のトップレベルを肌で感じながら、ビジネスを一段と加速させていく所存です。

また、数年前から海外にも目を向け、ASEAN地域(※「Fact02」を参照)で複数の自社開発メディアを展開しています。業界トップに迫る勢いで伸びているプロダクトも中にはあります。海外展開の難易度の高さは先人達の取り組みをみれば火を見るより明らかなわけであり、我々だけがラッキーで上手くできるはずもありません。まずはプロダクトを各国にローンチし各国・各エリアの一次情報をプロダクト経由で集めながら、準備をしてきました。こちらも構想段階なので現時点での詳細は控えますが、時間と資金が多少かかったとしても成長著しいASEANの発展に大きく貢献できるような分野にフォーカスしていきたいと考えています。

このように医療(ヘルスケア)分野や海外事業といった、インターネット企業という固定概念に収まらない挑戦を通して、中長期的に日本経済を支えるようなメガベンチャーへと、組織を成長させていきたいと考えています。

Speeeが注目するFact 01 地域包括ケアシステム

2025年問題を受け、政府の社会保証制度改革国民会議が2013年の報告書で導入を訴えたのが地域包括ケアシステムだ。医療や介護を必要とする高齢者が住み慣れた自宅で最期を迎えられるように、医療・介護施設を地域全体で支える。政府が地域包括ケアで入院患者の数を抑えるのは、年間約40兆円に達した医療費の膨張を食い止める狙いもある。在宅医療では医師や介護士、薬剤師など多くの専門職が連携するため、ランニングコストの低いITシステムの導入が求められている。介護予防・生活支援サービスの市場規模は現在6,800億円だが、2025年には1兆3,000億円に迫る見込みだ。

Speeeが注目するFact 02 ASEANの可能性

総人口が6億人を超えるASEAN。地域全体の名目GDPは、2020年まで年率8.2%で成長すると予測されている有望市場だ。この地域で最も注目すべきは、ITはの普及率だろう。たとえば携帯電話の普及率は、デジタル面のインフラ整備に積極的なシンガポールやマレーシアで150%超、ASEAN内では比較的貧しいインドネシアでも130%を誇る。Facebook利用者が9割を超える国も多く、データ通信においては日本以上に活発化しているといっても過言ではない。デジタル周りのプラットフォームは整い、いよいよ越境性の高いコンテンツ産業に日本が参入する下地ができたと言える。

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株式会社Speee

Interviewee

大塚 英樹 氏

おおつか・ひでき

株式会社Speee

代表取締役

1985年、埼玉県生まれ。メディア関連事業の会社を創業し、2011年に譲渡。同年、25歳で株式会社Speee代表取締役に就任。2015年にAERAの「日本を突破する100人」に選出。2017年からREAPRA Venturesの外部アドバイザーを務める。Speeeは「デロイト トウシュ トーマツ 日本テクノロジー Fast50」7年連続成長企業上位ランクイン。Great Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキング上位連続受賞などがある。