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ベンチャーキャピタリストが惚れ込む経営者の条件、起業家が認める投資家の条件

まだ見ぬ世界へと、先陣を切る起業家2名と投資家が語る「人類の未来のつくり方」

Mar, 11, 2016

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社

河野 純一郎 氏  ほか

当事者としてのベンチャーキャピタル

― そもそも、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の仕事はどのようなものなのでしょうか?混同されがちな投資銀行との違いを含めて、お聞かせください。

 

■河野 両者の違いは、基本的には、アドバイザーか当事者かの違いです。投資銀行は、株式の発行やM&Aといった手段を使うことで、クライアントの資金調達のサポートをしています。外部からのアドバイザー的なポジションとして、財務戦略の側面から助言をおこなう機関なのです。一方でVCは、投資先企業の株を一部買い、経営に直接参画しながら事業を育てていきます。つまり、一種の当事者です。ファンドを組成して運用する、自分たちのポテンシャルに依存した仕事であり、失敗するも成功するも実力次第のシビアな世界です。

■田中 こう言われると、起業家は経営に関与して欲しいか、して欲しくないかで両者を使い分けるように感じる方も多いかもしれません。しかし実際には、そもそも投資銀行が未上場ベンチャーに投資することはほとんどありません。これは、M&Aが実現した場合に得られる利益がそう多くはないためです。ですからベンチャー経営者としては、投資を受ける相手としてVCを真っ先に挙げるわけです。

■河野 コンサルティングファームとVCを比較する方も多いですが、こちらも同様ですね。コンサルタントの生業は、クライアントに経営戦略に関する助言をおこなうことであり、それ自体に対してフィーが発生します。一方、ベンチャーキャピタリストも社外取締役などの形で経営に参画はするものの、それによって直接フィーが得られるのではありません。まず株を買い、経営努力によって企業価値を向上させ、結果として株価を高めることによって初めてキャピタル・ゲインが得られるため、完全に成果主義の仕事となるのです。

優れたキャピタリスト、優れた経営者の条件

― 起業家、そして現役ベンチャーキャピタリストの観点から見て、どのようなベンチャーキャピタリストが優秀だと思われますか。

■河野 優秀とされるベンチャーキャピタリストに共通する資質は、スタートアップやコンサル、投資銀行などとさほど変わらない気がします。具体的に言うと、インターネットやITサービスのような未知なるものに対して、強い知的好奇心が湧くことです。新しい価値を創造することが仕事なので、最先端への情報感度が高い人が向いています。最近だと、海外のVCの投資先情報をまとめて発信するWebサイトを運営していた人物を、あるVCがスカウトした事例もあります。「好きこそものの上手なれ」という言葉もある通り、まさに投資先に熱狂できるかどうかが重要なのです。もちろん、一次情報を直接取りにいく行動力やロジカルシンキング力、情熱と主体性で人を巻き込む力なども要求されます。

■金山 起業家目線で言うと、ベンチャーキャピタリストの真価は情熱で問われていると思います。株式を発行する企業側からすると、一度発行した株式を買い戻すのは難しいため、どのように、誰に持ってもらうか慎重にならざるを得ません。私が河野さんを投資家に選んだのは、人として関係作りが上手だったから。そして何より、我々のビジネスに心から共感してくれたからですね。彼ならともに働いていける、と直感していました。「伊藤忠テクノロジーベンチャーズ」という看板よりも、河野さんという人物で選んだというわけです。実際、彼はVASILYの引っ越しまで手伝ってくれました。(会場笑)

■河野 資本を投じて企業価値向上を図る、という業態もあり、VCはクリエイティブでスマートなイメージも強いかもしれません。しかし、実態は意外と泥臭いものです。投資先企業は資金的に余裕があるわけでもなく、汗水垂らして働くことも多いからですね。幸い自分は、体を動かすのは厭わないタイプだったので、時間と力を使って貢献しようと考えていました。実際、VASILYのオフィス移転を手伝ってみて良かったのが、現場社員の方々とコミュニケーションがとれたことです。金山さんのビジョンが現場に溶け込んでいると分かり、より貢献したい、寄り添いたい、という気持ちが強まりました。

 

■田中 誰に株を持ってもらうかは、やはり重要な要素です。二度と買い戻せないかもしれないしれないわけですから。実際、私もMBOという手法でオーナー経営者として独立していて、すごく大変な経験をしました。そんな、経営者の孤独、苦しさを感じた時に、河野さんのように一番精神的な支えとなってくれる人を選ぶのは当然でしょう。

― 逆に、経営者に必要とされる要素は何なのでしょうか?

■河野 先ほど話に出た、ベンチャーキャピタリストに求められる条件と似て、起業家にも情熱が必要です。ここにいるお二人は冗談抜きで人類の未来を考え、新しい価値を創っていこうとしており、本気度が違います。似たことを言う経営者であっても、話を聞くうちに、自ずと秘めている思いの差は分かるものです。

■金山 私が重要だと感じているのは、ハングリー精神ですね。何かに飢えて、貪欲に成果を求める。向上心が無い人では成功することは不可能でしょう。スタートアップはつらく、成功のハードルも高い仕事です。そんな中でも、つらいけどやり切ろう、もっと大きなものに向かっていこう、というマインドを持った人と一緒に働きたいですし、逆にそのような人でなければ、いずれ折れてしまうと思います。

■田中 やはり知的好奇心ですね。たとえばFringe81であれば、毎年新規事業をやっています。会社の中を見ても、毎年事業が変わる、上司も部下も変わる。そんな環境だと、知的好奇心がない人は無理です。変化に対応できないから。けれども、知的好奇心があればむしろワクワクしてくる。燃え始めます。そのようなマインドを持っていることが非常に重要です。 ハングリー精神も大切ですよ。

世界の未来を創る仕事

― VC、そしてスタートアップの魅力は、それぞれどこにありますか。

■河野 田中さんや金山さんのような起業家をサポートすることで、未来の発展に寄与できる点です。ビジネスを創るビジネスというわけですね。まだ規模は小さくても、将来価値を生み出すダイヤモンドの原石のような企業を磨き上げる仕事はとてもやりがいがあり、魅力的なものです。実を言えば、当初は起業するためのスキルアップとしてVCを選択しましたが、実際に働くうちに、ビジョンに向かい努力を続ける人の最初の理解者として共働していくことにロマンを感じるようになりました。

 

■金山 急成長中のベンチャーではつらいことも多いですが、その先には大きな楽しみがあります。人はみな大人になり、現実を知るうちに何かを諦める機会も増えます。ところが、起業してベンチャーをやっていこうとすると、子どもの時のように自分が成長しながら可能性が広がる。不可能が可能になる機会の多さが全く違うのです。新しいことに挑戦し、価値を創造し続ける。そんな経営者としての仕事に、ミュージシャンを目指していた頃と同じような情熱を抱いています。

■田中 スタートアップは一種の総合格闘技です。経理からマーケティング、人事までの幅広い領域で、いかに価値を発揮できるかが問われます。大企業とは異なり、職域をまたいだ働き方が求められる点では、相対的に大きな負荷がかかることも事実ですね。ただ、そこにはやりがいがあり、新しい価値を創造して未来を切り拓いていく感覚が病みつきになります。とはいえ、大手とベンチャー、という二元論は良くありません。たとえば、私が新卒で入社した当時のソフトバンクはベンチャー的なカルチャーが強かったですし、結局は身を置いた環境でどこまで自分を追い込み、何を創造するかが大切です。将来肯定できるような選択をするためにも、しっかりと自分に向き合ってほしいと思います。

 

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社

Fringe81株式会社

株式会社VASILY

Interviewee

河野 純一郎 氏

こうの・じゅんいちろう

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社

パートナー

VC最大手の株式会社ジャフコにて、国内の未上場ベンチャーへの投資活動及びファンドレイジング業務に従事。多数の投資先企業の事業計画および資本政策の立案、戦略的事業提携プランの策定等を経験。2008年4月伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社入社、現在に至る。

Interviewee

田中 弦 氏

たなか・ゆづる

Fringe81株式会社

代表取締役 CEO 兼 CCO

1999年インターネット部門採用第一期生としてソフトバンク入社。新卒2日目から米国ベンチャーとのジョイント・ベンチャーの立ち上げに従事。半年で退社するもその後も一貫してベンチャーを立ち上げ、創業から携わった4社中2社は上場企業となった。2005年Fringe81創業、2013年マネジメントバイアウトにより独立。

Interviewee

金山 裕樹 氏

かなやま・ゆうき

株式会社VASILY

代表取締役 CEO

大学在学中に結成したインディーズバンドで、フジロックフェスティバル出演。卒業後バンドを解散し、VIBEを経て2006年にヤフーへ転職。Yahoo! FASHIONやX BRANDなどの立ち上げと責任者を経験。2009年、VASILY代表取締役社長に就任。