• トップページ
  • コモディティ化しないコンサルタントになるには?イノベーション戦略で日本を先導するADLの使命と挑戦

コモディティ化しないコンサルタントになるには?イノベーション戦略で日本を先導するADLの使命と挑戦

「コンサルタントは早く成長できて、経営者や優秀なビジネスパーソンになる近道」と考えている人もいるだろう。しかし「この時代に本当にコンサルに行くのがいいのか真剣に考えるべき」と語るのはADLのパートナー・花村氏だ。本記事では、若くしてパートナーとして東京オフィスを牽引する同氏に、学生時代の考え、これからのコンサルティングの役割やキャリア、そしてADLの独自性について話を伺った。

May, 17, 2021

アーサー・ディ・リトル・ジャパン

花村 遼 氏

バイオテクノロジーの研究から、コンサルティングに進んだ理由

──花村さんがアーサー・ディ・リトル(以下、ADL)に入社された経緯について教えてください。

私が新卒でADLに入社したのは、学生時代に感じた日本の科学技術への問題意識がきっかけでした。大学では体育会のバスケ部での活動に明け暮れており、大学院ではバイオ関連の研究をしていました。論理の世界で説明できないバイオの研究が楽しく、ドクター進学を考えた時期もありました。

当時はちょうどリーマンショックの後で、日本の名だたる大手メーカーは伸び悩んでいました。国としても科学技術を軽視するような風潮があり、漠然とではありますが、「日本のものづくり・サイエンス・テクノロジーを復活させたい」という想いを抱くようになりました。

そこで出会ったのが、コンサルティングファームの中でも「戦略」「テクノロジー」「イノベーション」を重視しているADLでした。

私が研究していたサイエンスは0から1をつくるものですが、イノベーションは1から100をつくることだと捉えています。例えば飛行機を発見したのはライト兄弟で、それを人間社会の役に立つものとしたのがボーイング社です。ADLではイノベーションを単なる発明ではなく、実用化と拡大を伴うものであると定義しており、私自身もそうしたイノベーションに携わりたいという想いから入社を決めました。

入社後は、自動車・半導体・エネルギー・機械・化学・消費財といった、あらゆる産業のプロジェクトに従事しました。マネージャーとなった後は、ヘルスケア・ライフサイエンス分野に関わりたいとの思いから、その分野の案件を開拓し創造してきました。パートナーとなった現在は、再生医療をはじめ大きな可能性のあるバイオテクノロジーの分野で、日本の競争力を高めることが私のライフワークという思いを持ちながら、民間企業や官公庁のコンサルティングに従事しています。

コンサルタントはなくてもいい職業。コモディティ化しないためには?

──学生に人気があるコンサルティングという仕事を、花村さんはどのように捉えていますか?

皆さんはなぜコンサルティングに興味を持っていますか? コンサルタントになれば、3年程で様々なスキルが身についたり、精神的なタフネスも養われたりするので、ビジネスパーソンとして成長できるのは確かです。

しかし「今の時代に本当にコンサルに行くのがいいのか?」ということについては、真剣に向き合う必要があるでしょう。語弊を恐れずに言えば、世の中に実際の価値を生み出すのはメーカーや事業会社であり、私はコンサルタントはなくてもいい職業だと考えています。

また、コンサルティング市場もコモディティ化が進んでいます。コンサルティングプロジェクトの中でも、実行支援という名のもとに「クライアント内でも時間をかければ解決できるが社内リソースが足りていない、もしくは、社内では実行しにくいからお願いする」という側面の案件が増えています。それがコンサルティング市場の成長を後押ししている面は否定できません。ただそういったコンサルティングであれば、本来なくてもいいと私は考えます。

やはりクライアントだけでは解決できない課題、そして、その先に社会に新しい付加価値をもたらすような創造的な案件を、産業横断的に取り組んでいくことが、コンサルティングの仕事に求められている役割だと感じています。

──コンサルティング業界はどのように変わっていくとお考えですか?

時代は数百年に一度の社会変革の真っ只中にあり、あらゆる企業・産業で存在価値の再定義が進んでいます。社会におけるイノベーションが、個別のプロダクトやサービスを開発・提供することから、「産業・社会システムを再定義すること」に変わってきていて、これを「イノベーションモデルの転換」と捉えています。

今までの産業区分を超えたイノベーションにより、業界の垣根さえ曖昧になっていくでしょう。そのため、業界別・機能別に特化した従来のコンサルタントでは太刀打ちできない時代がすでに到来しています。日々のコンサルティングワークを通しても、産業横断的な視座に立たないと解決できない課題に直面していると感じることが多々あります。

課題解決やイノベーションの本質には、ロジカルシンキングだけでは辿り着けない

──変化するコンサルティング業界において、求められるスキルや思考法について教えてください。

コンサルタントに求められる素養として、多くの人はロジカルシンキングを思い浮かべるかもしれません。しかし私は「課題解決やイノベーションの本質にはロジカルシンキングだけでは辿り着けない」と考えています。例えば、通常は課題から打ち手を考えることが一般的ですが、世の中には打ち手が先にあって試してみたら課題解決につながることもあります。

有名な例では、山中教授によるiPS細胞の発見が挙げられます。iPS細胞も、そこに潜む因果律を解き明かす前に、打ち手となるプロトコル(※1)が先に見つかりました。詳細な経緯は割愛しますが、試しに実験をしてみたら、メカニズムはよく分からないが細胞が初期化したという観察結果が出発点になっています。その後、細胞の初期化に必要な因子を絞り込んでいく作業を経て、歴史的な発見につながりました。
※1 医療における治験実施計画書や治療計画書

歴史上の科学の大発見を紐解くと、このような事例は枚挙にいとまがありません。そしてコンサルティングにも似た側面があると考えています。すなわち、何かの偶然や人間の思考の外にイノベーションの種があり、日々の思考を積み重ねていく際には「いかに偶発性を起こす仕掛けを作るか」が重要になります。

ロジカルシンキングは基本的には因果律ですが、最近はAI技術が発達して囲碁で人間がAIに勝てなくなったという話にも代表されるように、人間が因果律だけでAIと戦うには限界がきています。それを意識した上で、人間にはどのような課題解決スキルが必要かというと、「自分なりのものの見方や世界観」ではないでしょうか。

言葉にすると、刹那や共鳴や偶発や情理など、そうした因果の世界から離れたところに予想もつかない素晴らしい出来事が起こります。ロジカルシンキングだけでは説明できないけれど「AIにはない人間の感覚やひらめき、人に影響を受けて共鳴するといった情理の世界がある」というのが私なりの世界の捉え方です。こういったものがこれからの社会や課題解決には必要なのではないかと思っています。

VUCAの時代では、人と異なる「専門性の掛け算」でエッジを立てる

──これからの時代のキャリアは、どのように考えていくといいのでしょうか?

VUCAの時代にキャリアを考える上で欠かせない観点は、「価値の源泉は稀少性にある」ということです。エッジを立てなければ埋もれてしまい、市場価値は高めにくくなってしまいます。

では、どうしたらエッジを立て希少性を高められるのでしょうか。理想形と言われるのは「π(パイ)字型キャリア」です。πの横線は先程お話したような「AIにはできない、複合的な課題解決スキル」、2つの縦線は、異なる2つの専門性を持つことを指します。これらの縦と横を磨いていくなかで、共感する仲間を見つけながら、自分が望むキャリアをつくっていくことが求められています。

πの縦線の「専門性」については組み合わせが重要です。1つの分野を深掘りしていく方法もありますが、それだけではなかなか食べてはいけません。私の場合は10年間コンサルタントを続ける中で、「経営、バイオ、産業政策」という3つの専門性を獲得してきました。バイオの専門家や産業政策の専門家は他にもいますが、これら3つをあわせて語れる人が世の中にすごく少ないので、結果的に私のエッジとなっています。

特にコンサルティングの世界では深い専門性がつきにくいため、これからコンサルタントを目指す人には、ぜひ自らの専門性の掛け算で新しいセクターをつくる側になっていただきたいですね。

産業創造のハブとして、エコシステムと政策を支え、日本のパラダイムシフトを先導する

──ADLジャパンの独自性や新たな挑戦、ご自身の取り組みについてもお聞かせください。

ADLは1886年に世界で最初に設立された経営コンサルティングファームです。当時は工業化社会の産業革命の真っ只中で、サイエンスやテクノロジーによって社会や産業構造が変わり、パラダイムシフトが起きた時代でした。そうした背景から、設立以来「戦略」「テクノロジー」「イノベーション」を重視し続けてきました。

日本法人であるADLジャパンはグローバルでも中核となっており、東京オフィスの存在感が強いファームです。約140名(2021年3月時点)が在籍する東京オフィスは、テクノロジーが関連するほぼ全ての産業を対象に、主に成長戦略でトップラインを伸ばす支援をしている点が特徴です。

従来の民間向けのコンサルティングや官公庁向けの政策提言の他にも、今後も私たちにしかできない「イノベーション戦略」に取り組んでいきます。そして、社会や産業を変革するための新たなビジネスモデル構築を模索しています。

私の場合はヘルスケア・ライフサイエンス分野を立ち上げて、コンサルティングのプロジェクトを通して産業創造を担う活動をしていますが、その背景にはサイエンスの世界とビジネスの世界が断絶していることへの問題意識がありました。

特に日本においてはサイエンスのレベルは世界に引けを取らないものの、それを育てて稼ぎ、リターンを社会還元して再投資するエコシステム形成が大きく出遅れています。テクノロジーやサイエンスだけでなく産業化を見据えた視座を持ち、複数のステークホルダーを多面的に巻き込み、前に進めていく大局観や戦略が欠けているように思います。

例えば、遺伝子治療は日本が大きく出遅れた分野ですが、どうやって産業化の道筋をつくるのか。研究開発の促進のみならず、新しい技術に対する社会的な受容性の醸成、規制環境や医療インフラの整備など、重層的な課題が山積しています。こうした課題を解決するには、従来の枠組みを超えたイノベーションが不可欠で、ADLがハブとなり、産官学の垣根を超えた変革のサポートをしています。

「いかにエコシステムと政策をつくっていくか」を支援することは、イノベーションを支えるファームとしての使命です。この30年間で競争力を失ってきた日本のパラダイムシフトを提唱し、先導できるのが私たちADLジャパンだと自負しています。

好きなことを続けた結果、望むキャリアができていく

就職活動では「10年後どうなっていたい? 将来どうしたい?」と聞かれることも多いと思います。しかし私は「正直なところ10年後のことはわからないし、予定調和なキャリアは面白いのだろうか? 」と思い、将来への質問自体に違和感を覚えていました。

そこで様々なキャリアの本を読み漁り、自分に一番しっくりきたのが「計画された偶発性理論」というものです。これは一言で表すと「いまワクワクすることを積み重ねていくことが予期せぬ良い偶発性を生み、結果として望むキャリアが形づくられていく」というセオリーです。

実際に私自身もその理論を体現して、この10年間ワクワクすることに全力を注ぎ続けてきましたが、それが結果的に「ライフサイエンスの産業化」という現在のミッションにつながったのだと感じています。

そのため就職活動でもっとも大切なことは、本音で自分自身と向き合い、素直に自分は何が好きで何が嫌いな人間なのかを知る「自分学」だと思います。自分が持っている想いやオリジナリティを大切にしながら「いま興味がある好きなことを続けていけば、自分らしいキャリアができていく」と信じ、自分にとって最適な一歩は何なのかを考えてみてください。世の中が決めたブランドの価値ではなく、自分の心に素直に従って就職活動をしてほしいと思います。

その上でコンサルタントの道を歩みたい人は、ぜひご自身の経験や携わりたい産業のなかで「いかにエッジを立たせるか」を意識してみてください。また、もしADLに興味を持っていただけたなら、自ら新しいセクターをつくることや、イノベーションのハブを担う存在を目指していただけたら嬉しいです。

ADLのインターン情報はこちら

アーサー・ディ・リトル・ジャパン

Interviewee

花村 遼 氏

はなむら・りょう

アーサー・ディ・リトル・ジャパン

パートナー

東京オフィスのパートナー。東京大学大学院工学系研究科を修了後、ADLジャパンに入社。10年にわたり、ヘルスケア・ライフサイエンス業界および食品・飲料・他消費財業界のクライアントに対し経営コンサルティングを提供。大手グローバル企業のイノベーションマネジメントにおいて、豊富な経験を有する。深い情熱とコミットメントで、東京オフィスのヘルスケア・ライフサイエンスプラクティスの成長を牽引している。AMED・経済産業省主催「再生医療等製品の実用化の加速に向けた投資促進研究会」委員。著書に『新型コロナ 収束への道』(日経プレミアシリーズ)がある。