自分の軸に沿って就職する企業を選ぼうとしたときに、多くの人が「自分らしさとは何か?」「若手が活躍できる環境が備わっているのか?」といった問いと向き合うでしょう。そこで本記事では、ユニークな軸で意思決定をし、日本を代表する大手企業で異色のキャリアを積む、若手エース社員に注目。大手とベンチャーで得られる成長の違いなど、誰もが知りたい点について話を伺いました。
―― 新卒で日本たばこ産業(以下、JT)に入社。経営企画部に配属されるも、すぐに関連会社へ出向しアプリビジネスを立ち上げた、異色の経歴を持つ歸山(かえりやま)氏。現在は出向先から戻り、たばこ事業本部のマーケティング企画担当として、マーケティング機能のインハウス化やデジタルテクロノジー活用のプロジェクトなどを推進している。
歸山 学生時代は、リクルートやDeNAのような企業を見ていたんです。学部2年から4年まではベンチャーで新規事業立ち上げを経験したり、実際に志望していたDeNAでも半年間インターンをしたりして、「すごく働きやすくて、魅力的な会社だな」と思っていました。
そこからなぜJTに入社したのかというと、僕の就活の軸が「潰れそうな会社にいくこと」だったからです。うまくいっているイケイケのベンチャーはトップダウンになりがちですが、「潰れそうな会社は上に自信がなくて、下(若手)に権限がある」という、仮説を持っていました。当時から、自らの問題意識をしっかりと持った上で仕事をしたいと考えていたんです。
―― JTは現在たばこ市場で世界第三位、売上は2兆円を超える。今も昔も変わらず安定感ある巨大企業のように思えるが、その影では単一事業と国内市場縮小への危機感から、事業の多角化や海外企業の大型買収を通じたグローバル化を推し進めてきた。
歸山 JTはたばこ以外にも医薬や加工食品、近年ではデバイス開発を手掛けるなど、変化の多い企業です。しかし、その裏側には様々なチャレンジと失敗があり、社内には健全な危機意識があります。だからこそ、「新しいやり方をやっていかなきゃ」「新しい人を採らなきゃ」という流れがあり、若手に裁量を持たせて任せる風土が備わっていると感じます。
――歸山氏は最初の3年間、出向先でアプリビジネスの立ち上げに取り組んでいた。大手に入ったにも関わらず「社内一人ベンチャー」さながら、システムもデザインもCSもPRも法務も、全部一人でやっていたという。
歸山 入社して最初のプロジェクトは、関連会社への出向という思いがけない形でスタートしました。でも今思い返すと、入社前面談で人事に伝えた自分の発言がそのまま跳ね返った配属なんです。
例えば「一人でやるのとみんなでやるのと、どっちがいい?」と聞かれて、僕は「みんなでやると遅くなるので一人がいいです」と答えていました。人事が、僕が学生時代にベンチャーでデジタル界隈にいたことも考慮して、その経験を活かせるような仕事を任せてくれたんだと思います。
とはいえ、入社してすぐに一人で仕事を進めていくのは想像以上に大変でしたね。実際にやってみたものの事業がうまくいかない局面に入り、いろんな人と話をしました。入社前は「JTに優秀な人なんていないだろう」と思っていましたが、いざ話をしてみると実はすごく優秀な人がたくさんいたんです。
――JTは元々たばこ単品の会社だったこともあり、「例えばデジタルのケイパビリティ・リテラシーが低いなど、対話を通じて社内に問題が沢山あることが分かった」と語る歸山氏。ただ、学生時代の繋がりや、3年間アプリビジネスの立ち上げに関するあらゆる経験を積んだことで、社内外にその問題解決をサポートしてくれるネットワークが出来上がっていた。
歸山 培ったネットワークを活かせば、社員との対話を通じて見えてきた社内の問題を解決できると考えました。「それなら、JTを自分のクライアントとしよう」と決めて、出向先から戻ってすぐに現在の社内代理店プロジェクトを立ち上げたんです。
具体的には社内の課題を自分で見つけて、外部のスペシャリストと協業し、解決までを担う、JTをクライアントとした実行部分も含む社内コンサルみたいなことをしています。
例えば「自社WebページのUX改善をした方が良い」と思ったら、社内営業をして予算をもらい、取引先を選定して、発注、ディレクションするというように、主体的にどんどんプロジェクトを進めていきます。
――右も左もわからない中、1年目から相当な苦労を味わったはずだが、結果的にはそれが今のユニークなキャリアに結びついている。歸山氏は、大企業の中でコモディティ化しないために大切なポイントとして、次の3つを挙げた。
歸山 一つ目は「自分のスタンスを曲げない」こと。入社当時の僕はDeNAやリクルートのようなベンチャー的なマインドが強く、JTにいる人たちと異なるところが多かったので、正直、辛かったんです。ただ、そこで周りに流されずに、社内の人たちをリスペクトしながらも、「どうやってスタンスが違う人たちと協業して最大のバリューを発揮できるか?」ということを考え続けました。
二つ目は「ちゃんと説明する」こと。仕事をする上では会社のshould、自分のcan、自分のwillがありますが、ここにズレがあると大きな組織では上手くいきません。大きな仕事こそいろんな人の協力や調整が必要です。そのためには、ちゃんと説明して周りを説得できるように成長しないといけません。経営企画や新規事業をいきなりやりたがる人がいますが、「willだけじゃなくて会社のshouldや自分のcanがそこにあるか」という視点も欠かせません。
三つ目は「自分の会社をかわいいと思えるか」。僕の場合、会社をかわいいメンヘラ女子だと思ってプロデュースしているという感じですかね(笑)。あくまでも例えですが、そんな風に会社のイメージと自分の関係をちゃんとデザインできて、その関係性が心地いいかどうかというのは、就活を通していろんな会社や人を見る際に持っていてほしい視点です。
――その上で、JTの魅力についてこのように語ってくれた。
歸山 JTの面白さは「入社するにあたり、商社と悩んだ人、ベンチャーと悩んだ人、外資コンサルと悩んだ人……いろんな人がいて、入社理由に『その人らしさ』が反映されているところ」だと思います。
なぜかというと、親御さんや友達から「何でJTに入るの?」って必ず聞かれる会社ですし、自分のことばで「なぜJTに入るのか」を本音でちゃんと語れる人しか入ってこないからです。
採用の段階で、志望動機は聞かれません。むしろ対話を重ねる中で「自分はどんな人で、何が好きなのか」といった、ありのままの姿を引き出されるでしょう。自分らしく居られる時こそ最大限の力が発揮できるという考えのもと、入社後にも自分らしく、考えや想いを伝えあうという文化がありますね。
――最後に大手とベンチャーの両方を経験した歸山氏の立場からみて、「これからの時代を生き抜くために大事なことは何か」を尋ねてみた。
歸山 もし違いがあるとしたら「大きなリソースを大人数で動かすためにはどうしたらいいか」というケイパビリティは、大企業の方が身につくと思います。
「速く行くには少人数、遠くに行くのは大人数」という言葉がありますが、「ベンチャーでは速く短く行くスキル」「大企業では大人数で遠くに行くためのスキル」を磨けるのではないでしょうか。
ベンチャー界隈の友達と会話をしていると、ベンチャーの組織規模が大きくなるにつれ、「ベンチャーをどうやって大企業のようなちゃんとした組織体にするか?」という悩みが出てくるみたいです。
僕はその逆で、「大企業のような組織体に、どうやってベンチャー的なスタンスをインストールするか?」にチャレンジしているのかなと考えています。それは、元々ベンチャーを狙っていながら、あえてJTに入社した自分がチャレンジしたい領域です。これからどんどん外部環境の変化が激しくなっていく中で、特に変化をしなくてはならないのは大企業ですからね。
大手かベンチャーかという2軸ではなくて、実際に人と会って相性を確かめながら、自分らしく働ける場を見つけてほしいですね。
日本たばこ産業株式会社(JT)
歸山 和大 氏
かえりやま・かずひろ
日本たばこ産業株式会社(JT)
たばこ事業本部 マーケティング企画
慶應義塾大学(SFC)を卒業後、2015年に新卒で日本たばこ産業株式会社(JT)に入社。経営企画部に配属後、別会社に出向しアプリ関連の新規事業を担当。本社復帰後、マーケティング機能のインハウス化を遂行中。JTをクライアントとした社内コンサルのような立場で、社内の課題を見つけては解決に向けて予算獲得から取引先選定・発注・ディレクションまでを一貫して推進している。