マネージャー職の廃止、360度評価、多くのメンバーが部署掛け持ち、経営陣の関与なしで次々と立ち上がるプロジェクト……。新しい人事評価制度「Natura」を公表し、極限までフラットな組織を志向する裏側に迫る。
● 「フラットな組織」を志向していたわけではない
● 先人の“正解”を参照できないから、リーダーを増やすしかなかった
● 離職率の高い企業が、ティール型組織になるまで
● 採用・オンボーディングでも、「主体性」を最重視
● 目下の課題は、「自信がつきすぎている」こと
昨今は多くのスタートアップが組織をフラット化し、情報格差を最小限にとどめようとしているようだ。
しかし、LayerX・福島良典氏のインタビュー記事を呼び水に「情報は平準化すべきだが、階層構造はなくすべきではないのでは?」といった議論も起こった。
ネットプロテクションズは、フラットな組織の代表格ともいえる。その是非について率直に疑問をぶつけると、代表の柴田氏は「僕らはそもそも、フラットな組織を目指したことなんて一度もない」と言い放った。
現在でこそ、「マネージャー職を撤廃し、ティール組織を実現する新しい人事評価制度」を掲げる『Natura』を対外向けに発表したが、それ以前から、ほぼ同様の組織体制が実現されていたのが実態だという。マネージャー職の廃止も、360度評価も、現場では当たり前のように実践されていた。
ネットプロテクションズの組織形態は、「コンサルティングファームに近い」と柴田氏は語る。運用業務は外部パートナーや派遣社員などのプロフェッショナルに任せ、社員は企画に特化。多くのメンバーが複数部署を掛け持ちし、プロジェクトベースで働いている。
もちろん、企画で結果を出していくためには現場業務も手がける必要はあるし、特定のスキルを深掘りしたければスペシャリストを目指すのも自由だ。成長方法も、配属も異動も、すべて社員が主導権を持っているという。
ネットプロテクションズが、ここまでメンバーに権限を委譲できるのはなぜか。その鍵は「判断基準を合わせること」にあった。
意思決定に必要な情報も余すことなくシェアする。Slackのチャンネルは基本的にオープン、ナレッジシェアツール『Scrapbox』にも「社内Wiki」として全ての動きや議論を書き込んでいるという。
同社の組織体制の原点は、2006年に柴田氏が衝撃を受けた一冊の本──組織図も階級も人事部もないブラジルのセムコ社について書かれた『奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ』だ。感銘を受け、従業員に主を置く経営スタイルを採るようになったという。
柴田氏の思想だけでなく、事業特性も背景にある。過去の記事でも語ってもらったように、ネットプロテクションズは、日本の後払い決済市場のトップランナーだ。常に未踏の地を先陣を切って歩み続ける立場ゆえに、先人の“正解”を参照できない。
セールス、システム、運用、お問い合わせ対応、未払いリスク…多岐にわたる因子について、前例なき中で考え続ける必要がある。そのため、「トップダウンで考えようとすると、すぐに処理量の限界が来る」という。
組織としての判断基準の重要性に気づいた柴田氏は、2013年に一大プロジェクトへ着手した。現在も同社の屋台骨となっている、「ミッション」「7つのビジョン」「5つの価値観」の策定だ。
当時約50名いた社員を、6〜7人ごと8チームに分け、それぞれ30万円ほどの予算を付与。3ヶ月間、他の業務よりも最優先で「自分が社長なら、どういった会社にしたいか」を考えさせた。各チームでつくり上げたビジョンを、全員が納得できるまで徹底的にすり合わせていったのだ。
柴田氏は、この理念の策定により、10年間向き合い続けてきた組織改善の成果が、ようやく出はじめたと振り返る。
採用活動では、「誠実」「自分の頭で考えられる」「成果にこだわれる」「周囲とコラボレーションできる」といった性質を重視している。
また、オンボーディングでもメンバーの主体性を尊重している。新卒入社メンバー向けの研修は、人事部のトップダウンではなく、研修を終えた直後の入社2年目のメンバーも企画し、推進するという。ネットプロテクションズの全体像を捉えるために、各事業のポテンシャルを学びつつ、現場社員とのコミュニケーションも積極的に行う。「研修とは思えないくらい、参加者の満足度が高いですね」と柴田氏。
研修が終わり、配属が決まった後も特徴的だ。しばらくはリソースの半分をシステム部署の仕事に割き、自身の手により開発を経験するのだ。
そして、新卒と中途、どちらにも効果があるというのが「ファミリー制度」。部署を問わずにおおよそ5人ごとにチームを組む。誰にもすぐにファミリー役の社員がつき、ランチやレクリエーションを通じて、会社に馴染みやすくなるそうだ。タテでもなく、ヨコでもなく、“ナナメ”の関係性作りである。
約15年間かけて、最適な組織体制を模索し続けてきたネットプロテクションズ。現状の課題は「ほぼないです」と柴田氏は自信をのぞかせる。
強いて挙げるなら、社員の成長が速すぎて、自信がつきすぎていることだという。「独力ではなく、他のメンバーを動かしてコトを成す」「他のメンバーを輝かせることにこそ、喜びを見出す」という思考に転換し、良いリーダーになるために必要な挫折を味わってもらう仕組みを構築しているそうだ。
最後に、柴田氏は、リーダーとして社会に大きな価値を提供していきたい人にとって、ネットプロテクションズは「胸を張れる環境だと思う」と語った。
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株式会社ネットプロテクションズ
柴田 紳 氏
しばた・しん
株式会社ネットプロテクションズ
代表取締役社長(CEO)
1998年に新卒で日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。3年後にITX株式会社に転職。株式会社ネットプロテクションズの買収に携わり、26歳のときにオンリーワン決済サービス『NP後払い』の立ち上げを果たす。2004年4月に社長就任。
山下 貴史 氏
株式会社ネットプロテクションズ
人事総務グループ
慶應義塾大学 経済学部卒業。 新卒でSIer企業に入社し、大小様々なシステム開発を経験。 その後、インターネット広告企業に転職し、アドテクノロジー領域の自社サービス開発やIT部門の組織マネジメント、子会社の役員としてオフショア事業立ち上げ等を担当。 2014年5月よりネットプロテクションズに参画。 BAグループにて、IT部門のマネジメント、各事業のプラットフォーム構築を担当してきたが、昨年より人事総務、法務も兼務し、バックオフィス領域の組織、仕組み創りを推進