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世界で新たな価値を創出し続ける伊藤忠商事の真髄と、次世代ビジネス戦略

五大商社の中で社員数が一番少なく、若いうちから責任ある仕事を任せるチャレンジングな社風を持つ伊藤忠商事。そんな伊藤忠商事がGoodfind限定のセミナーを開催。常務執行役員CDO・CIOの野田氏と人事・総務部長の浦島氏が、伊藤忠商事の価値の源泉と次世代ビジネス戦略について語った。

Jan, 17, 2020

伊藤忠商事株式会社

野田 俊介 氏 ・ 浦島 宣哉 氏

伊藤忠商事が全社をあげて取り組む、

ビジネスの次世代化

野田 2018年、伊藤忠商事(以下、伊藤忠)は中期経営計画を策定し、「次世代商人になる」と掲げました。なぜ、このタイミングだったのか。それは、2017年にAmazonがWhole Foods Marketを買収したことが、我々にとって衝撃的な出来事だったからです。それまでAmazonはあくまでもオンライン上のサービスで、インターネットビジネスとリアルビジネスは別物だというのが大方の見解でした。ところがインターネットビジネスが拡大し、リアルビジネスにまで攻め込んで来たわけです。伊藤忠はリアルビジネスに強みを持つグループですが、そうした脅威を目の当たりにし、2017年の間に色々な議論を重ねる中で、2018年の中期経営計画において「全社の次世代化を図る」ことを決定しました。

近年ECが急速に伸びているというのは事実ですが、国内の消費者向け物販の9割は未だリアルで購入されています。ですので、リアルビジネスに強みを持っていることは大きな価値だと考えています。しかし、全社をあげてリアルビジネスのデジタル化を推し進めていかないと、将来的にインターネットビジネスに太刀打ちできなくなるという危機感もあり、様々なリアルビジネスの次世代化プロジェクトを推し進めています。

現在、私たちを取り巻く外部環境の変化は大きく4つが挙げられます。一つ目は、デジタルプラットフォーマーの躍進。Google、Amazon、Facebook、Apple、つまりGAFAと呼ばれる企業の勢いはめざましいものがあります。二つ目が、モビリティ革命。100年に一度のモビリティ革命と言われ、クルマが大きく変わっていく中、業績好調なトヨタでさえ強い危機意識を持って、様々な投資を行っています。三つ目は、電力エネルギーの利用と供給のスマート化。これは新電力や再生エネルギーと言われる領域です。そして四つ目がサステナビリティ、つまり持続可能な社会への対応です。ESGやSDGsに関心が集まり、世の中が変わってきている中で、伊藤忠としても投資を進めていかなくてはいけません。

こうした4つの外部環境の変化に伴い、2018年から伊藤忠は大きな体制変更を行いました。現在、私はCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)とCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)を兼務しています。CDOとして事業開発部門を、CIOとして社内の情報システム部門を管掌しています。そもそもこの2つの部門は全く異なりますが、これだけ全社をデジタル化、次世代化していこうとしているタイミングですから、情報システム部門に在籍する多くの優秀なエンジニアのリソースを、事業開発に活かしていくことが狙いです。またデータエコノミー、つまり様々な情報のデータ化を進める中では、セキュリティ強化も重要になります。情報システム部門は守りに強い側面があるので、事業開発と組み合わせて守りと攻めを融合していこうというのが、私がこの2つの部門を管掌している背景です。

リアルビジネスに強い、

伊藤忠が推し進めるデジタル化

野田 伊藤忠が考える「ビジネスの次世代化」には、大きく二つの動きがあります。一つが、全ての事業領域の「デジタル化」です。データやAIを活用して事業の創出・効率化・コスト削減を図るというのは、必ず取り組まなくてはいけない事柄です。

2000年以降の技術革新について少しお話しすると、まず初めにインターネットの普及があります。1998年にGoogleが誕生し、2000年頃からインターネットが急速に拡がりを見せました。そして、スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表したのが2006年。スマートフォンができたことで、世の中に劇的な変化が起こります。その後、通信の高速化でブロードバンドが普及しました。そして、最後がIoTとビッグデータを用いたAI革命です。

IoTのポイントは、センサーやカメラが非常に高性能になり、なおかつ安価で、ネットワークも早くなったというところにあります。これにより様々な情報をまとめて蓄積することが可能になりました。そうして蓄積されたビッグデータを、AIを用いて分析、解析し、得られた結果を現場にフィードバックすることで、既存のビジネスの効率化に繋がったり、新しいビジネスを創ることができたりするようになるわけです。ただ、AIというのはリアルでビジネスをしている人たちの経験値や勘など、ノウハウをインプットしていかなければ賢くなりません。このように、IoT、ビッグデータ、AI。この3つはセットで考える必要があります。

伊藤忠は原料・製造、卸・物流・金融、小売といったバリューチェーンにおいて、全ての領域で事業を展開しています。商社の中でも特に生活消費関連に強いと言われていて、ファミリーマート、ヤナセ、伊藤忠エネクス、スカパー、ほけんの窓口、コネクシオ(ドコモショップを運営)など、他にも様々な事業を有しています。実際に伊藤忠グループの店舗には一日延べ2,000万人、オンラインにも延べ3,000万人が訪れます。オンライン上では顧客の行動履歴を把握することが可能ですが、リアル店舗ではこれまでPOSによる過去実績データしか蓄積することができませんでした。しかし今は、AIカメラなどの様々な技術を用いることで、顧客が購入しなかったデータなど、より多くの情報を集めることができます。そうしてリアルビジネスで得られる様々な情報をデータ化し、収集、蓄積、活用していくことで、そこに高い価値が付くと考えています。

国内外のスタートアップ企業との連携で、

新たなビジネスを生み出す

野田 伊藤忠の「ビジネスの次世代化」のもう一つの動きは、「スタートアップ連携」です。デジタルの活用によるビジネスの効率化だけでなく、新たな取り組みも行っていかなければいけません。ただ、20年前であれば、米国の真似をすれば似たようなビジネスを生み出すことができましたが、今はゼロからイチを創るというのはそう簡単なことではありません。なぜなら、世の中で考えられるような会社は既にほとんど存在していて、その隙間に入り込むように新たなベンチャーが次から次へと生まれているからです。ですから、もちろんゼロからイチを創り出す取り組みも行いますが、まずはスタートアップ企業に投資をして、新しい事業を一緒に創っていくという動きを加速させています。

実は伊藤忠は、ベンチャー投資をどの商社よりも先駆けて行ってきました。1995年当時、世界を席巻していたサン・マイクロシステムズという企業の製品の販売権を取得し、伊藤忠が世界最大のディストリビューターになったというのは、エポックメイキングなことでした。このサン・マイクロシステムズの製品販売の成功をきっかけに、ネットワークのシスコシステムズや、データベースのオラクルなどの製品の販売権を次々に取得し、日本でも1位、2位のディストリビューターとなりました。またその繋がりから20年以上に亘り、シリコンバレー周辺に生まれる新たなスタートアップにも積極的な投資を続け、それらの企業がアジア進出する際の権利を獲得してきました。

国内では2000年に、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(以下、ITV)というベンチャーファンドを組成しました。ITVは、ZOZOやメルカリ、ラクスル、LOCONDOといった、皆さんがよく知るような企業への投資案件を数多く手がけています。また伊藤忠として直接投資をしているベンチャーの一例を挙げると、ネット広告のFreakOutや東大の松尾研究室から誕生したAIベンチャーのPKSHA、他にも様々な企業があります。

このように伊藤忠はこれまで情報分野において積極的な投資を続けてきました。一方、食料や繊維、自動車など他の領域へのベンチャー投資はそこまで行ってきませんでしたので、2018年から新たな投資枠を設けて投資の幅を広げています。その結果、2018年度は生活消費バリューチェーンに190億円、次世代モビリティ・電力に60億円、新技術活用に50億円、合計で300億円の投資を行いました。カンパニー別で見るとエネルギー・化学品、機械、繊維が多く、地域別では日本、北米、欧州、中国にバランスよく投資をしています。具体的には、中国のEV/北米のライドシェア、蓄電池、ネット広告/フィンテックに投資をしていて、他にもIoT/ESG関連など投資先は多岐にわたります。

あくまでもベンチャー投資を目的にするのではなく、伊藤忠としてのビジネスモデルを創っていきたいという考えのもと、こうした国内外のスタートアップ企業との連携により、新たなビジネスを生み出そうとしています。

過去30年で2度目となる

大きな転換期

浦島 いま話があったように、リアルビジネスに強い伊藤忠ですが、AIやIoT、ビッグデータといった、これまで経験したことのない新しい領域については、社員全員が深い知見を有しているわけではありません。全社をあげてビジネスモデルを変えていこうと取り組んでいる中、人事としては、新たな動きに対応できるように学ぶ機会を提供し、社員の知識レベルの底上げを図っています。

私が伊藤忠に入社してから30年以上経ちますが、このような状況を経験するのは今回で2度目です。1度目は今から約20年前、商社のビジネスモデルが貿易による単体収益から、事業経営を行い連結で収益をあげる形へと大きくシフトするタイミングでした。その時もほとんどの社員は事業買収や連結経営に不慣れで、ファイナンスや投資基準、リスクアセットなど、必要なことをすごい勢いで学んでいる状況でした。そうした経験が現在の発展のベースにあると考えていますが、当時と同じようなことがまさにこの1、2年で起きているという感覚です。

世の中の動きに柔軟に対応する

“第8カンパニー”の新設

浦島 2019年7月、伊藤忠は第8カンパニーを新設しました。以前からあるカンパニーは、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融。この名称を見てもわかるように、これら7つのカンパニーは全てプロダクトベースで構成されています。もちろん商社としてプロダクト毎にバリューチェーンを作るメリットは大きいのですが、そこでは対応しきれない課題やビジネスチャンスも存在します。例えば、Amazonのようにありとあらゆる商品を取り扱うビジネスモデルを構築しようとしても、商社にはそういうミッションを与えられているカンパニーが存在しないため、実現することはできなかったでしょう。商社はサプライチェーン、バリューチェーンを構築し、利益を得るビジネスモデルですが、その中では補いきれないビジネスがあるのではないかということに気づきました。そうした問題意識から、商品の所管を持たないカンパニーを作り、消費者目線でビジネスを作っていくこと、即ち「マーケットインの発想」で第8カンパニーを設けたという背景があります。

また第8カンパニーは、その成り立ちだけではなく組織構造にも特徴があります。従来の7つのカンパニーには部門があり、部があり、課があり、言わばヒエラルキー的な組織構造になっていますが、第8カンパニーにはそうした階層は存在しません。プレジデントの下にゼネラルマネージャーを配置し、彼らの下にいくつものプロジェクトを同時並行的に走らせています。その中で、メンバーが複数のプロジェクトを担うというスタイルで、アメーバ的な組織が形成されています。これにより必要なものへ素早い投資判断をしたり、上手くいかないプロジェクトをすぐに閉じたりするなど、よりスピーディーな意思決定が可能になりました。

商社のあり方が大きく変わる中で、

伊藤忠が求める人材とは

浦島 このように会社が大きく変わろうとする中で、伊藤忠は次の3つに長けた人材を求めています。まず初めに、「幅広くアンテナを張り、情報を収集できること」です。ただ情報を集めるだけでは意味がないので、次にその情報の中から「社会・市場変化を敏感に捉え、課題を解決する方法を見極めること」が求められます。とはいえ、それだけでは机上の空論になってしまうので、最後にそれを商売にしていくために、「様々な関係者と交渉し、案件を価値あるものに仕立てていくこと」が必要です。

商社では理論だけでは商売をすることはありません。「理論的にこうすれば儲かるはずだ」「マーケットがこう動いているからこうすべきだ」というだけで、商売が動くことはないんです。実際に現場で動き回り、ビジネスパートナーを巻き込み、一緒に汗をかきながら、大変な思いをして商売がうまく行った時ほど最高な瞬間はありません。そんな総合商社ビジネスの面白さを一緒に分かち合える仲間を伊藤忠は求めています。

伊藤忠商事株式会社

Interviewee

野田 俊介 氏

伊藤忠商事株式会社

常務執行役員CDO・CIO

1987年、東京大学工学部卒業後、伊藤忠商事株式会社入社。 ネットベンチャー開発室長、エキサイト株式会社代表取締役社長、情報・保険・物流部門長、業務部長などを経て現職。2019年4月より常務執行役員CDO(Chief Digital Officer)・CIO(Chief Information Officer)に就任。

Interviewee

浦島 宣哉 氏

伊藤忠商事株式会社

人事・総務部長

1987年、一橋大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社入社。保険営業開発部長、住生活・情報経営企画部長、食品流通部門長代行、生活資材部門長などを経て現職。香港、シカゴ、ニューヨークに駐在し、多様な業界においてキャリアを経験し、現在は伊藤忠の働き方改革や人材の次世代化を推進。