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A.T. カーニー会長が語る、「プロフェッショナルファームの志」

大手自動車メーカーから米国留学を経て、当時米国でNo.1ファームだった戦略コンサルティングファーム「A.T. カーニー」に入社。コンサルタントとして20年以上のキャリアを重ねてきた梅澤氏は、社内外のパートナーと密に連携を図りながらイノベーション創出を先導し、今なお活躍の幅を広げている。今回は、コンサルティングから広がる仕事のフィールドやその意義、やりがいについて、梅澤氏に話を伺った。

Mar, 06, 2020

A.T. カーニー株式会社

梅澤 高明 氏

コンサルティングから広がった、仕事のフィールド

今日はまず初めに、私が現在どのような仕事をしているかお話しします。一つめは、A.T. カーニーの会長として、大企業を中心に戦略コンサルティングを行なっています。

次に、「イノベーションの集積」を創るための準備をしています。2020年夏に、日本最大の都心型スタートアップ集積拠点「CIC Tokyo」を設立します。私はA.T. カーニーと兼務で、CIC日本法人の会長に就任しています。ゆくゆくは数百社のスタートアップ、大企業のR&D、そしてベンチャーキャピタルが集まる、イノベーションの集積拠点になることを目指しています。

さらに、「Cool Japan」というテーマでの仕事もあります。Cool Japanは数年前から経済産業省と内閣府が主導して推進している国策です。ポップカルチャーを中心とした日本の文化を世界へ向けてさらに発信し、アニメ・マンガ、食、インバウンド観光などを含め、さまざまな文化系の産業を日本の成長産業にしていこうという取り組みです。

最後に、「NEXTOKYO」という活動で、これは東京のネクストバージョンを作ろうという取り組みです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、都心の至るところで再開発プロジェクトが進んでいます。しかし2020年以降、人口あるいは就労人口が減り、高齢化はより一層顕著になるでしょう。そんな中で、「東京という街をどのように作っていくかということを、一歩引いて考えたほうがいいのではないか」という思いを持つ人たちのチームがNEXTOKYOです。今日はこのNEXTOKYOを中心にお話ししようと思います。

NEXTOKYOの問題意識が生まれた背景

NEXTOKYOは、自分たちで描いたビジョンを政府や自治体、街づくりに携わる企業に向けて、どんどん提案しています。建築家、デザイナー、元アスリート、ベンチャー経営者など11人のチームです。「この人と一緒に議論を進めたい」と思う人を、一人ひとり口説いて加わってもらいました。

NEXTOKYOの問題意識について、お話しします。現在、都内各所において、大規模な都市再開発プロジェクトが目白押しです。しかし、人口のピークアウトをまもなく迎える東京に、そんなに大量の新しいオフィスや住宅が必要なのだろうか、という疑問が残ります。そもそも、そうした大規模な都市開発プロジェクトが進められる背景を紐解くと、前回の東京オリンピックに辿り着きます。当時は東京オリンピックが開催される前の数年間で、道路や鉄道などインフラが一気に整備されました。そして、目覚ましい高度経済成長が訪れたわけです。1960年代はハードが貧弱だったので、ハードを作ればコンテンツは後からついてくるという幸せな時代でしたが、2020年の東京オリンピックに向けた都市開発も、そうした成功体験を未だに引きずっているように思います。

また、どの街も「訪れる人を囲い込み、他の街へ出ないようにして、お金を落としてもらう」という発想で開発を続ければ「大型・高層のオフィスビルを建て、飲食フロア、商業施設、流行りのシェアオフィスを作る」という、判で押したような“幕の内弁当”風の都市開発になってしまうでしょう。ですから、これからの街づくりは、どのようなソフト、コンテンツを集積したいかを考えてからハードをつくるという、発想の逆転が必要だと考えています。

資本がない民間のワークグループが、未来の東京の姿を描く

NEXTOKYOは個人の集まりで、街づくりの投資を自ら行う資本力はありません。しかし、アイデアは豊富にあります。身軽に動いて誰とでも話ができ、いろいろな人たちを繋ぐことができます。それを最大限活用して、街づくりの問題意識に応えるような提案をしていきたいと思っています。

「世界の都市ランキング」の多くで、東京は2位~4位あたりに入っています。大企業の集積度や、食を始めとする文化都市としての魅力が、高評価の主な理由です。また、高層ビルの合間に昭和の路地裏や古民家の街並みが残っていたり、大都市の興奮と小さな街の温かみが共存している点も、東京の魅力として挙げられています。シンガポールやドバイには作れないこのような魅力をどれだけ残せるかが、東京のこれからの街づくりに重要な視点だと思います。世界からの評価もふまえ、自分たちの作りたい街を考えて、「Creative City」「Tech City」「Fitness City」というNEXTOKYOの3つの柱を定めました。

「Creative City」とは、文化創造産業が集積している都市を意味します。例えば、原宿や渋谷はストリートファッションや音楽、秋葉原は電脳・オタク文化など、それぞれ独自の進化を遂げた街の魅力をより高めます。一つひとつが観光のデスティネーションとしてユニークであり、都市の特徴を先鋭化することに繋がっていきます。

「Tech City」は先端技術産業が集積する都市、そして都市の中にさまざまなソリューションを実装することで、機能性や感性価値を高めた都市のことです。2020年をめがけて、外国から日本を訪れるお客様がピークを迎えるのに合わせ、東京を先端技術のショーケースとすべく、さまざまなプロジェクトを推進しています。

「Fitness City」は高齢者、障がい者、外国人などさまざまな人を包摂する力の高い都市です。具体的には、街へもっと出て体を動かし、健康的なライフスタイルをつくろうという狙いで、整備が遅れている水辺を活用した提案を行なっています。

実際にNEXTOKYOの活動が法律に風穴を開け、規制改革の実現に至った例もあります。一つが料理人やクリエイター、インバウンド観光ガイドといったクリエイティブ産業に携わる人の就労ビザ緩和。もう一つがダンス規制の撤廃(クラブやダンスホールなどの営業規制を緩和する改正風俗営業法の成立)です。そして、この法律改正に尽力した有志たちを中心に、引き続きナイトタイムエコノミー推進の活動をしています。今年は観光庁から予算を預かり、夜間の文化的活動の支援を行なっています。

テクノロジーカンパニーやデザインファームとの融合

今後、私たちが一番考えていかなくてはいけないのは、テクノロジーカンパニーやデザインファームとどのように融合し、市場を形成していくかということです。皆さんもご存知の通り、現在はIBMのようなテクノロジービジネスを手がけている企業が、コンサルティングも行なっていますよね。それに対して、IDEOのようなデザイナー集団もまた、ビジネスデザインに携わり、イノベーションのパートナーとして、企業に対して自分たちをブランディングしています。アメリカでは、新しい事業を創造する際、コンサルファームとデザインファームの両方が関わるというケースが当たり前です。

私はイノベーション系の仕事を中心にやっていますが、NEXTOKYOのメンバーにはデザインファームの主催者が2人いますので、その方たちと一緒に顧客へ提案することが多くあります。彼らにデザイン思考的なアプローチで、アイデア創出のプロセスを仕切ってもらい、私たちがもう少し広い意味でのビジネスデザインを担います。そして新サービスのコンセプトができたら、彼らにプロトタイピングをリードしてもらう、というようなコラボレーションです。「顧客にイノベーションを起こす」という目標は、デザインファームもコンサルファームも同じですから、異なるスキルを持つ人たちが協力して、それを両側から狙うということです。

コンサルファームの競争が激しくなる中で、デザインスキルを持つ人たちとどのようにコラボレーションするのか、あるいはテクノロジーカンパニーと市場をどう分かち合うのかというのはリアルなテーマとしてあります。コンサルファームにデザインスキルを持つ人材が、デザインファームにコンサルティングができる人材が参加することが当たり前になっていくと思います。いいコラボレーションができるよう、コンサルタントはデザイナーがモチベーションを高く保ち、最大限の力を発揮できるように、良好な関係を築いていかなければなりません。互いにリスペクトし合い、相手の持っていないものを補えるような、人ベースの関係づくりが大切です。そういう融合がないと、コンサルティングの仕事も徐々に価値を出せなくなっていくと思います。単純にデザインファームとコンサルファームが合併、買収すればよいという話ではないのが、難しくもあり、面白くもあるところです。

全く予期していなかった、コンサルタントのキャリア

ここからはキャリアについてお話しします。私はもともと音楽で身を立てるつもりで、大学在学中に音楽活動をしていましたが「これで食べていくのは難しい」と思い諦めました。当時、音楽の次に好きなものが車でした。東京にいたかったので、そうなると日産かホンダしか選択肢がなく、先に内定が決まった日産に就職しました。ただ日産に入った時点では、将来のキャリアについて何か考えがあったわけではありません。入社後、宣伝部や地方のディーラーでのセールスマンとしての経験を経て、営業支援とマーケティングに関わる仕事をしました。マーケティングの教科書を読み漁るうちに、もっと本格的に勉強がしたくなり、アメリカへ留学しました。その時は留学から戻ったら、マーケティング視点で新型車の企画をしたいと考えていましたが、アメリカに行って大きなカルチャーショックを受けたんです。世界は本当に広いし、日本企業に戻ってマーケッターになるのは今でなくてもいいと考え、アメリカに残って仕事ができるような転職先を探しました。

当時は「アメリカのビジネスを裏側から見てみたい」という思いを強烈に抱いていました。その理由は、ビジネススクールのケーススタディで、これでもかというほど「アメリカの企業はこんなに素晴らしい」という話を聞かされ、「本当か?」と疑問に思ったからです。当時のA.T. カーニーは、日本ではまだ二十数名の規模でしたが、アメリカではトップファームの一つで、自動車分野でもNo.1でした。当時、世界を席巻していた日本の自動車産業出身の私のポテンシャルを、カーニーの自動車グループのトップが評価してくれたことで、英語力の足りない私でも何とか採用されました。A.T. カーニーの印象は「真面目に価値を出そうとしているファームだな」というものでした。頭の良い有名大学・MBA出身のコンサルタントだけでなく、産業界の現場でリアルな経験と知恵をつちかってきた人材も採用していて、こんな人たちがタッグを組んでクライアントの課題解決に真剣に取り組んでいるところに好感を持ちました。

私は好奇心が強く、飽きっぽいほうなのですが、A.T. カーニーでコンサルティングを二十数年続けられているのは、自分がやりたいことを一番実現しやすい環境だからというのがあります。好奇心が強いので、企業の代表を務めながら、社団法人を立ち上げたり、国のプロジェクトに携わったりしていますが、こうした仕事の多くに、コンサルタントとして身につけてきた視点とスキル、そしてネットワークが生きています。幅広くマルチに取り組んでいるように見えても、自分の中では全て繋がっているんです。普通の会社員では、そんなことができる立ち位置は、なかなか得がたいですし、コンサルタントならではだなと感じています。

自由度が高い分、求められる"知の修行"

コンサルタントは、クライアントも、テーマも、一緒に働く社外のパートナーも自分で選べます。それら三つの次元で自由度が高いところが魅力であり、居心地が良い部分です。クライアントにとっての価値を最大化しようとすれば、社内で足りないリソースを外から調達するのは当たり前です。ですから私も社外に、信頼できて、高い能力を持ち、一緒に仕事をして楽しいと思えるパートナーと多く関係を築いてきました。先ほどご紹介した「NEXTOKYO」が良い例ですが、A.T. カーニーのプロジェクトで、NEXTOKYOのメンバーたちにパートナーとして協力してもらうこともあります。

若手コンサルタントであっても、ディレクションの仕方次第で、自分の取り組むテーマやクライアントを選ぶことは可能です。だいたい3年位で自分のやりたいテーマがはっきりしてくることが多いです。もちろん、早くから専門性を磨くことが必ずしもいいとは限りません。5年位、来たボールをなんでも打ち返していた人が、7、8年経ってものすごく間口が広く、高い能力を持ったコンサルタントになるというケースもありますので、どちらもありだと思います。

私がコンサルタントとして大成するために必要だと考える最初の条件は、あり余る好奇心、あるいは顧客に対する強烈なサービス精神を持っていることです。サービス精神というと軽く聞こえるかもしれませんが、単に顧客企業の言うことを聞いて行動する、という意味ではなく、真に顧客にためになることであれば、彼らが望まないことでも体を張って主張し、行動できるか、という姿勢です。

もう一つの条件として、未だかつてないくらいの「知の修行」が必要となります。私たちのように市場の中で最も高いフィーで勝負しようと思ったら、当然、相応の深さが求められます。その深さは、先ほどの好奇心あるいはサービス精神と、知の修行の積み重ねによるものです。コンサルタントを目指すのであれば、その覚悟は持っていてもらいたいですし、それでもやりたいと思う人に入ってもらいたいですね。これは訓練で身につく部分と資質の部分がありますから、インターンシップを経験すれば、自分がコンサルタントに向いているかどうかがわかるでしょう。ファームはそれぞれ強みや特徴が異なります。企業サイト等の情報だけではわかりにくい部分も多いので、ぜひインターンシップを経験したり、社員と会って話したりして、それぞれのカラーを知ってもらいたいですね。

A.T. カーニー株式会社

Interviewee

梅澤 高明 氏

A.T. カーニー株式会社

日本法人会長/パートナー

東京大学法学部卒、MIT経営学修士。日・米で20年以上にわたり企業を支援。得意分野は戦略・イノベーション・都市開発。
クールジャパン、知財戦略・デザイン経営、インバウンド観光などのテーマで政府委員会の委員を務める。一橋ICS(大学院国際企業戦略専攻)特任教授、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。
CIC(Cambridge Innovation Center)Japan会長を兼務し、国内最大の都心型スタートアップキャンパス「CIC Tokyo」の2020年夏開設に向けて準備中。