• トップページ
  • "優秀人材"が描くキャリアプランの罠。 不確実な未来に適応し、強く生き抜く「環境選択」のススメ

"優秀人材"が描くキャリアプランの罠。 不確実な未来に適応し、強く生き抜く「環境選択」のススメ

優秀な学生が思い描く、華々しい未来のキャリア。しかしイメージばかりが先行し、正しい判断のために必要な前提情報がアップデートされていない就活の現状には、学生が陥りやすい罠が潜んでいる。事業と人事の両方を知る、サンブリッジ取締役兼最高人事責任者の梶川氏が語る進化するための環境選択のススメとは。

Jan, 15, 2019

株式会社サンブリッジ

梶川 拓也 氏

「B to B」の事業領域への向き不向き

 私たちが事業を行うBtoB領域は、学生の皆さんにとっては馴染みが薄いと思いますが、いかにロジカルで合理的に、お客様の購買意思決定に影響を与えることができるかが全てです。お客様の売上げや利益が、着実に伸びていくのが手に取るようにわかるので、結果がはっきりしています。

 今のような変化が激しい時代には、一般的に言われる「PDCA」よりも、自ら「仮説」を持ち「実行」「検証」「仕組化」できることの方が大切だと考えています。この仮説思考力をどれだけ持ち合わせているかで、生産性が高いか低いかという、結果の差に繋がってくるからです。これはセンスではなくスキルなので、誰でも習得できます。

 一つ言えるのは、大学や大学院まで学業や研究に励み、「仮説」をもとに「実行」「検証」を積み重ねる努力をしてきた人にとって、BtoB領域のビジネスモデルは一番結果に繋がりやすいということ。少なくとも得意である可能性はかなり高いです。少し意外かもしれませんが、大学までに取り組んだ学問や研究が直接活かされなくても、その過程で養われたチカラが確実に活かせるのがBtoB領域の面白いところです。

「好き」ではなく「得意」を貫き、追求する

 私もキャリアについて色々と考えてきましたが、学生の頃から将来のキャリアプランをどれだけ鮮明に描いたとしても、結局は思い通りになりません。

 ただその中でも、得意なことにこだわるようにしています。不得意なこと、つまり結果が出ないことはやらないというスタンスは貫いてきました。ビジネスにおいて結果とは、つまり「業界標準を上回る持続可能な利益」のこと。それがなければ、どんなに良いことを語っていても、いずれ立ち行かなくなってしまう。なぜなら、利益が出ないことで、真に実現したいことに取り組むための制限ができてしまうからです。何かしらの社会問題を解決したいと言っていても、利益をあげられないことで、その想いを十分に実現できない企業や経営者をたくさん見てきました。

 だから仕事にするのであれば「好き」ではなくて「得意」を軸にした方がいい。得意なことが、仮に好きではなかったとしても、結果は早く現れやすいので、その先の選択肢も加速度的に広がっていきます。

撤退基準を明確にするための「直感」と「場数」

 加えてもう一つ大事なことは、限りある時間の中で明確な撤退基準を設けることです。投資の世界にプロスペクト理論というものがあるように、人には費やしたものをなんとか取り戻そうとする心理が働きますから、気がつかないうちに、必要以上の時間やお金を投下してしまいがちです。でも、いくら「得意」ではないことに時間やお金を費やしたところで、標準以上の結果が得られることは少ないでしょう。それこそ博打のようなキャリアになりかねません。

 自分は何が得意なのかを見極めるのが難しいと思っている人には、「直感」と「場数」とアドバイスしています。とにかく撤退基準を決めて、何らかの意思決定をたくさんしてみる。学生のうちなら、朝起きてから、その日1日で何をやるかを決めるだけでもいい。直感というと急にロジカルではなく聞こえるかもしれませんが、自分に合う合わない等は、誰もが毎日、無意識に直感的な判断を下しています。それを意識して自分で決めるということです。できれば周囲に公言した方がいいですね。

得意を活かせる適者生存の環境を選択する

 そもそも会社が雇用を保証すること自体、難しい世の中なのですから、会社と個人の間には良い緊張関係があり、そのうえで良質な成長の場を提供してくれる環境があるのが、良い会社だと考えています。雇用が保証される代わりに、自分がやりたいことを我慢してやらなきゃいけない、そんな環境に身を置くのはお互いに時間がもったいない。逆にいえば、合わないと思ったらすぐにやめた方がいい。それくらいフェアな関係性であるべきですし、やはり撤退基準は大事になります。

 私が言う「良質な成長の場」というのは、大企業によくあるジョブローテーションのような制度ではなく、複数の事業を持っていて、複数の職種があり、自分の向き不向きを試せる機会が社内にどれだけ多くあるかということ。

 これからの企業は、こうした機会を能動的に与えられる仕組みや環境を整えていかなければならないと思っています。それを実現するためには、1つの事業を創りあげるのと同じくらいの密度で、事業を取り巻く環境変化に対応する戦略を描き、戦略に応じた組織を柔軟にカタチづくれるかが鍵になります。人事でも、事業に対する深い理解と対応力、そして自ら変化を促進できる力が求められるようになっているので、人事をやるなら必ず事業を経験するべきだと思っています。

 さらに、経営者が人事にどれだけコミットするかも重要です。事業の成長戦略と人と組織の戦略、課題解決は切っても切り離せないので、それをきちんと理解している経営者は、皆さんの前に積極的に出てくるはずですし、実際に時間をかけて向き合っています。ダーウィンの進化論にあるような「進化による適者生存」は、自然界のみならず、人や組織にも当てはまるものだと考えています。

「雇用は保証しない」が「雇用される能力」は保証する

 私は採用の場で「雇用は保証しない」が「雇用される能力」は保証しますと伝えています。雇用される能力というのは、今この瞬間だけ市場価値が急騰しているようなスキルではありません。個人が得意なことを磨き、結果を出し続けるビジネスパーソンになる、汎用的なプロセスに基づいた自己実現ということです。

 今後も市場成長が予測される領域で、現在、学生に人気の高い職種だとしても、近い将来、一瞬にしてAIに取って代わられてしまうような仕事はいくつかあります。そんな状況下で、自分の向き不向きを試せる機会すら与えられなければ本当に苦しいでしょう。

 実は私もサンブリッジには新規事業をやるためにきました。もともと事業創りをしてきたので事業が大好きなのですが、人と組織の課題解決が最優先だと思い、引き受けました。

 ”財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上なり。されど、財なくんば事業保ち難く、事業なくんば人育ち難し“というように、結果的には全てが繋がっている。

 だからこそ失敗を恐れて自分の可能性を限定するのではなく、20代、30代の早い段階で、自分の得意を軸にした仕事と、その可能性を広げられる環境を、自らの意志で掴んでもらいたいと思いますし、私もそうした環境を提供していきます。

株式会社サンブリッジ

Interviewee

梶川 拓也 氏

かじかわ・たくや

株式会社サンブリッジ

取締役兼人事・組織責任者

1997年株式会社リクルート入社。同年ソニー株式会社入社、デジタル音楽市場開拓を担当。2003年株式会社チップワンストップ入社。東証マザーズ上場を経て取締役就任。法人向けマーケティングとサービス&システム開発を担当。2010年世界最大の寄付型クラウドファンディング、英国JustGivingの日本展開、JustGiving Japan(現JapanGiving)事務局長に就任。NPO/NGOの後方支援を通じて日本一の寄付流通額を達成。2017年株式会社サンブリッジ入社。人と組織の課題解決を担当。2018年3月より現職。広島県広島市出身、大阪大学経済学部卒。