第4次産業革命で無くなる仕事、生まれる事業

今後10年~20年で、今ある職業の49%がロボットやAIに代替されると予測される中、“仕事の未来”はどこに向かっているのか。数々の新規事業プロデュースを手掛け、ホワイトカラーの仕事を代替えするロボット技術で業界を牽引する高橋氏が、第4次産業革命の核心を語る―。

Jan, 31, 2017

RPAホールディングス株式会社

高橋 知道 氏

技術革新が早まり、人は一生で複数回の変化を経験する

―テクノロジーが世界を変える、というのは産業革命以来言われ続けてきたかと思いますが、私たちが生きている時代に何が起きているのでしょうか

身近な例で考えてみましょう。最初のiPhoneが発売されたのは2007年、アプリも入れられない、動画も見られない、カメラも酷いものでした。しかし、3年足らずでiPhone4は、1985年に世界最速だったスーパーコンピューターとほぼ同じ性能まで進化しています。2020年のiPhoneは2016年時点で世界最高峰のスーパーコンピューターと同じ性能になるという有識者もいます。テクノロジーは数十年で劇的に進化しており、極端に安くなることで一気に社会に浸透していく、そんな時代になっているのです。

―人の一生の間に大きな変化が複数回起きるようになっているということでしょうか。

職業や仕事という面で見ても、私たちはテクノロジーの影響を大きく受けるようになっています。私は1993年にコンサルティングファームでキャリアをスタートしましたが、当時はインターネットは使われておらず、パソコンでさえ1人1台ない時代でした。今から考えれば、どうやって仕事をしていたのか不思議ですよね。何をしていたかというと、ネットで検索するのではなく、図書館に行って資料を調べるんです。資料をコピーし、分析結果をOHPシートというプラスチックのシートにまとめて映写機でプレゼンをする、これがコンサルタントの仕事だったのです。

―今では当たり前になっているインターネットとパソコンの登場がいかに大きなインパクトをもたらしたかということですね。

大量のデータを素早く分析して即時性の高い戦略が立案できるというのは、今では当たり前ですが、当時は魔法のような衝撃を受けました。コンピューターがもたらした第3次産業革命が、目の前の仕事を一気に変えていく様を目の当たりにして、この革命を動かしていく側に回ろうと決意したのです。

全ての技術は最終的に無料になる

―その後、コンサルティングファームからソフトバンクに移られていますが、実際に産業革命を動かしていく側に飛び込んだということですね

ソフトバンクでは、孫正義の持つ強力な先見性のもと、他社に先駆けたタイミングで高速インターネット回線に投資していました。ユーザー側の費用を無料に近づけることで一気にユーザーを囲い込み、周辺ビジネスを含めて投資を回収することで大きな成功を収めました。このように技術を短期間で普及させ、投資を回収していく21世紀のビジネスは、技術が変化する最適なタイミングを見定め、その当事者となれるかが戦略の鍵になります。

―他社に後れを取ればユーザーを獲得できませんし、ユーザーに受け入れられる程度に技術が成熟していないと投資が無駄に終わってしまう。非常にタイミングが難しいのではないでしょうか

時に我慢をし、時にはアクセルを踏んでタイミングを早める、これがテクノロジーのビジネスであり、経営です。例えば、昔は携帯で動画を見るのは困難でしたよね。通信帯域も細く、仮に見られたとしても高額な通信料がかかった。しかし、要素技術が廉価になり、インフラの整備が進んだ今ではスマホで動画を視聴することは当たり前であり、ほとんど技術的な価値はありません。技術の価格は、それを生み出すまでにかかった研究開発費・人件費をどのようなタイミング、どのようなビジネスモデルで回収するかで決まってきます。変化の早い現代では、技術が無料に近づくまでの期間は短くなり、ビジネスとして回収できるタイミングこそが勝負になっているんです。

ロボット・AI・IoT・第4次産業革命の波が来る

―この数十年でPC、インターネット、スマートフォンといった新たな技術が普及し、ビジネスとしても急拡大してきました。それでは、次にどのような技術が普及していくのでしょうか

第4次産業革命が、今動き出すタイミングにあります。蒸気を動力源とした第1次産業革命、電気が生まれた第2次産業革命、コンピューターが普及した第3次産業革命に続く、第4次産業革命では、ロボットや人工知能、IoTといった新しいテクノロジーが、生活から仕事まであらゆるものに変革をもたらしていきます。

―具体的に、どのような技術を事業化されているのでしょうか

私たちは10年ほど前から、第4次産業革命の中心の一つである人工知能に注目し、中でも特にホワイトカラーの仕事の自動化を事業化してきました。この領域がRPA(Robotic Process Automation)というコンセプトで名付けられ、ヨーロッパを中心に広がり始めたのがここ数年のことです。

―技術が普及するレベルまで成熟し、ここまで投資されてきた費用がビジネスとして回収されるタイミングということですね

潮目が変わるとはこういうことですね。AIという言葉は数年前には一般にはほとんど知られていませんでしたが、今は本屋に行けば書籍が山ほどあります。時代が追いついてきたんです。RPAに訪れたこのビジネスのタイミングを逃すことは考えられませんでした。

RPAがホワイトカラーの仕事を激変させる

―ホワイトカラーの仕事を自動化するRPAというのは、具体的にはどのような仕組みなのでしょうか

ロボットというと工場のラインで動いている産業用ロボットをイメージする方が多いでしょう。製造業の場合は、「人と生産設備」という二層による生産が、ロボットの登場で「人・ロボット(Factory Automation)・生産設備」という三層構造になることで、必要な労働者の人数が激減しました。これと同様にホワイトカラーにおいても、これまでは「人と情報システム」によって行われていた仕事が「人・ロボット(RPA)・情報システム」という三層で成立するようになるのです。

―すでにオフィスに存在するさまざまな情報システムを使って仕事をしている人間をロボットに置き換えるということでしょうか

例えばある銀行では、支店で記入された紙の契約書・申込書をシステムに入力するために、東京、名古屋、大阪で職員を100名ずつ雇用して入力業務を行っていましたが、RPAを導入することで完全に入力処理を自動化しています。また、住宅ローン審査のプロセスにおいても、人間が膨大な時間をかけて処理していたさまざまな書類の確認をRPAで自動化することで、住宅購入にかかるリードタイムを圧倒的に短縮することもできます。こうした一定のルールに基づいて対処できる仕事の自動化は、すでに商用化されています。

人工知能で私たちの仕事は本当に無くなるのか

―RPAによって自動化できる仕事は今後、次第に拡大していくのでしょうか

スタンフォード大学などの研究を起点として、機械学習を活用した次世代のRPAが少しずつ商用化され始めています。英語と中国語では、ビッグデータからパターンを抽出し、学習することで、複雑な事務処理を自動化する技術がかなり成熟してきています。例えば、カスタマーサポートの業務があったとしましょう。過去のカスタマーサポートの膨大な対応記録を学習することで、お客さまから新たな問い合わせがあった場合にも高い精度で適切な回答を返すことができるのです。最後には、人間の脳と同じように学習するコグニティブ・コンピューティングの時代が来るでしょう。

―RPAによってホワイトカラーの仕事が次々と自動化されていくことで、最終的に私たちは仕事を奪われてしまうのでしょうか

今後10年~20年で、今ある職業のうち49%が人工知能やロボットに代替されると予測されています。RPAによる自動化が進めば、確かに人間による作業は減っていくでしょう。しかし、人間から”仕事そのもの”が無くなるわけではありません。20年前にパソコンが普及し始めたときも、人間の仕事がなくなると言われていましたが、実際どうだったでしょうか。私たちはパソコンを手にしたことで、新たな次の課題を解決することが仕事となりました。課題が生まれ続ける以上、人間から仕事がなくなることはないのです。

グローバル規模でRPAにお金と人材が集まっている

―RPAが今まさにビジネスとして成長するタイミングだとすると、今後さまざまなプレイヤーが参入してくるのでしょうか

日本ではまだまだですが、世界規模で見ればRPAにお金と優秀な人材が次々と集まっています。第4次産業革命という非常に重要なタイミングが到来している中で、RPAを牽引していくのがトップを走る私たちの役割だと思っています。

―今後、RPAの市場が成熟する前にスピーディーに事業を展開されていくかと思いますが、どのような体制で事業を推進していくのでしょうか

今まで、新規事業創造のコンサル ティングに注力してきたため、社内のメンバーは揃って高いアントレプレナーシップ(起業家精神)を持っていますし、若手が挑戦するチャンスを創ることが会社の役割だと思っています。こうした起業家人材を活かし、オープンテクノロジーズを中心に複数のグループ会社体制で地域や商品の性質に応じた事業展開をしていきます。トレーニングの期間は必要ですが、新卒メンバーにも早く億単位の仕事を任せたり、役員になってもらい、事業責任者や経営者としてのキャリアを支援していきたいですね。

―テクノロジーが急速に無料に近づき、無価値になるとするとRPAも例外ではないのでしょうか

当然そうですね。今取り組んでいるRPA事業は、ビジネスとしてベストなタイミングが来ており、幸い私たちはRPAのトップランナーです。ただ、それも変化の早い時代に10年も続くことはないでしょう。そういった意味ではRPAは通過点ですし、常に次の時代を見据えていかなければなりません。どんな時代であっても、”常に未来を創造する当事者でありたい”そんな想いを持てる仲間と挑戦を続けていきます。

RPAホールディングス株式会社

Interviewee

高橋 知道 氏

たかはし・ともみち

RPAホールディングス株式会社

代表取締役

一橋大学卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)に入社。 ソフトバンク、スカイパーフェクTV!を経て、新規事業プロデュースを手掛けるオープンアソシエイツを設立。2016年、 オープンアソシエイツを持株会社へ移行。 2017年、RPAホールディングスに商号変更した。