“再定義されるインターネットビジネス”イノベーション創出の種となる、既存産業のIT化・Web化

伊藤:
IT・インターネットビジネスはある程度成熟し、業界自体が既にできあがっているのではないかと考える人も多い中で、これからまだまだIT領域の進化は続くはずです。私も多くの学生と接している中で、インターネットの持つ可能性を過小評価している人が多い気がして残念に思うことも多いです。もっと可能性に気づいてほしいなと思う部分もあるので、是非、大塚さんからデジタル領域やインターネット産業をどのようにみるべきか?を考えるための話として、現在にいたるまでのインターネット産業の潮流や、いま注目しているトレンドやトピックについてお話をお聞かせいただけますか。

大塚:
マクロ的に見ると、国内の情報通信産業の市場規模は全産業の中で最大級になり、モバイルデバイスの普及も飽和状態になってきていることは確かです。しかし、だからといって、インターネットビジネスはもはや成熟期を迎えてしまった、と考えるのは早計だと思います。サービス創りの視点から見ても、既存のやり方に則ったWebサービス創りの難易度は高くなってきている側面もありますが、私たちが注目すべきは、これからまだまだ起こる大きな変化だと思います。例えば、これまでネット接続されてこなかった膨大な数のモノが、改めてネットワーク化されるIoT(Internet of Things)、IoE(Internet of Everything)の時代がすぐそこまでやってきているという事実があります。世界最大のコンピュータネットワーク機器開発企業・シスコによれば、世界でおよそ500億個存在するモノの中でネット接続されてきたのはわずか1%未満。ネット化は加速し、これからの10年間で2390億ドルにものぼる事業規模のイノベーションが、IoEによって生み出されると予想されています。より広い意味でのインターネットビジネスは成熟には程遠く、まだまだ発掘されていない巨大なチャンスが潜んでいると言えるでしょう。

伊藤:
従来のWebサービスでは、PCやスマートデバイスに向かって意図をもって何かしようとする人だけが対象であったものが、今後は、生きている間に接する全てのモノ、あらゆるデータが対象となるという意味では、相当劇的に扱う範囲が広がりますよね。Webサービスの概念自体が再定義されうるインパクトがあるということですね。IoTやIoEがどう社会を変えるかの具体例はありますか。

大塚:
一例を挙げると、小売の現場において店舗内に設置されたセンサーがネットワークでつながり、読み取った年齢・性別のデータや過去の購買嗜好データをもとに、そのシーンに最適化された商品レコメンドをスマートフォンに送るサービスの実証実験が既におこなわれています。従来は活用されてこなかったタッチポイントがいよいよWebに組み込まれ、以前と比較してはるかに粒度の細かい行動データの取得や分析、利用が現実のものとなってきました。その結果、細分化されたよりきめ細かな需要に応える供給システムがますます加速され、小売産業も刷新されていくと思います。小売以外にも医療、不動産、農業など「既存産業×IT」という組み合わせによるイノベーション創出は、スマートデバイスの普及と発展により、再び、大きな事業機会となってきています。

Speeeという企業体に、事業創出のエコシステムを組み込む

大塚:
では、イノベーションはどうやって創出できるのか。イノベーションは、ごく限られた天才の閃きによってのみもたらされるものだけでなく、周到な実験と分析を繰り返す組織からも、意図的に生み出せるものだと、僕は信じています。とりわけ近年のインターネットビジネスの領域は、インフラコストの低下やエンジニアリングツールの普及などによって今まで以上にサービスの多産多死状態を迎えています。その結果、以前よりも、事業開発のノウハウを体系的に研究する材料が増えています。そして、イノベーティブな事業やサービスは、「イノベーション創出に耐えうる組織」とセットでこそ生まれるのではないかと考えています。

伊藤:
イノベーションを起こす個人と組織の関係は非常に興味深いテーマですね。イノベーションを阻害する要因は個人の創造性の問題ではなく組織とリーダーシップの問題であるとの指摘も最近のイノベーション研究からわかってきています。では、大塚さんがおっしゃるところの「イノベーション創出に耐えうる組織」ってどんな組織だとお考えですか?おそらく、Speee自体をそのような組織にしたいと組織設計して、相当に試行錯誤を繰り返しながら高みに達したのではないかと思うので、これまでの経緯も含めて、Speeeで実践している組織のコンセプトやイノベーション創出の実践例を教えていただけますか。

大塚:
2007年のSpeee創業以来、拡大し続けてきたWebマーケティング事業は安定した高収益源となり、そこを核に様々なチャレンジをしてきています。今までも外部の資本に一切依存することなくチャレンジを繰り返し、現在は200名を超える規模になってきましたが、まだ、これくらいの小規模なうちに事業開発の文化を作っておくことが大切だと考えています。事業開発を加速させるために、社長室、新規事業戦略室、そしてデータ解析を専門とするR&Dユニットを設置し、新規事業のアイデア創出と実行のためのメンバー育成が柔軟にできる組織体制が少しずつ構築されてきました。いわば、インキュベーション型のファンドがいくつかの企業に投資して事業・産業創出に臨むエコシステムを、Speeeという一つの企業内に取り込んでいるイメージです。この仕組みは、まだ少しずつですが、機能しはじめています。例えば、不動産やエンターテイメント領域の事業が創出され、新規参入を果たしたほか、近々お伝えできると思いますが、医療分野への展開も構想しています。事業開発にまつわる時代の潮流を読み解きながら、会社のステージに合わせて事業開発を実現する組織創りを今後も続けていきたいと考えています。

事業創造のエッセンスを体得した経営人材を輩出する環境

伊藤:
近年日本でもベンチャーキャピタルによる大型資金調達が増えていますが、Speeeは外部資本を一切入れずにここまでの成長を成し遂げ、かつSpeee社内に新事業創出のインキュベーション機能を取り組んでいるというのは大変希有な組織だと思います。私も創業当時のSpeeeのオフィスにお邪魔させていただきもう6年以上のお付き合いになりますが、当時からカルチャー作りを大事にされていたのが印象的でした。その結果、事業開発カルチャーが醸成され、イノベーション創出を促進する組織ができたと考えると一朝一夕に真似するのは難しいでしょうね。最後に、事業創造やイノベーション創出と関連して、将来的に市場価値が高くなる人材の要件や、Speeeでの人材育成に関する挑戦についてお聞かせください。

大塚:
事業創造にあたっては、社会・マーケット動向の理解に始まり、すでに生まれた顕在課題と将来生じる潜在課題の把握、その課題の因数分解、そして、組み合わせの力による課題解決に至る4つのエッセンスを身につけた人材の価値が高いと考えています。そのため、Speeeでは、組織視点から、イノベーション創出に向けた基盤を整備すると同時に、個人視点でも事業創造可能性を高めるための仕組みづくりを進めています。特に、先に述べた4要素に関しては、実際の事業創造プロセスを通して養う機会を設けています。具体的には、メンバー立案型の事業創造プログラム『Entre』、役員×メンバーコラボ型の事業創造プログラム『Summit』と呼ぶ二つのスタートアッププログラムを通して事業機会を見つけ、優秀なプランはさらに役員直轄型の事業創造プロジェクト『Board+』に引き上げる、というシステムを浸透させています。実際、これまでにも、Webマーケティング事業部で大手企業向けプロジェクトのリーダーを務めていた新卒2年目の社員が『Entre』で優勝し、『Board+』にアサインされた例もあります。さらに、BtoBを始めとして、BtoBtoC、BtoCにいたる全領域に事業展開しているからこそ、法人から消費者まで広範な視点を持ち、ビジネスモデルを横断してさまざまな組織機能を経験できる連続的なキャリア形成も可能となっており、すでに事業家タイプのロールモデルも出始めています。私たちは今後もSpeeeという企業自体を秀逸なプロダクトとして捉え、中長期的に新しい価値を生み出し続ける存在として洗練させていきます。