【1万字の本音】総合商社・伊藤忠OB訪問・完全版part3「”ほぼ全員希望部署に配属”の真実」

伊藤忠のOB訪問を完全再現。いま日本で最もリアルで濃密な伊藤忠の中の話が聞けます。part1,2はこちら。

part1: 商社って意外とホワイト
part2: 面接の「都市伝説」

目次

  • 優秀じゃないと商社マンにはなれない、本当の理由
  • 給料の話
  • 平均年齢と社内ポスト
  • 出向は悪い意味じゃない
  • MBAってどうよ
  • 商社って意味あるの?
  • 若手で大きな仕事がしたい
  • 「ほぼ全員希望部署に配属」の真実
  • 部署は結構つぶれる
  • 付録:総合商社のキャリアパス例

優秀じゃないと商社マンにはなれない、本当の理由

それでも仕事は面白かったですよ。基本的に僕ワーカホリックなんで。

さっきの海外新規事業。これ一番苦しかったですね。毎日3時まで、英語分かんないけど英語で電話会議して、英語分かんないけど英語で契約書作ってみたいなチャレンジでした。すごいどれも楽しかったですけど、全然華やかじゃないんすよ。時間が掛かるし、どうしても本質じゃないことがいっぱいあります。稟議書の句読点の大きさとか。物事の仕組みだからしょうがないよね、みたいな。でもその仕組みを高速で回さないといけないんで、優秀な人がたくさん必要。

ま、官僚もそうじゃないですか。そういう世界です。

自分の力はどうでもいいです。とにかくおもしろいデカかい仕事に携われたらいいです。それに対して自分がどれだけ貢献したとか関係ないです。って人だったら楽しい。あとまあブランドが楽しいんだよみたいな人もいます。

給料の話

給料の話で言うと、伊藤忠では8年目まではとんとんとんって順番に上がります。みんな一律です。どんなに自分が仕事してようが、仕事してなかろうが。厳密に言うと4年目に英語の試験がありますけど。
で、9年目以降は差がつきます。差って言っても、決算が悪いと、業績の一番上の事業と一番下の事業で、事業部長のボーナスが200万円くらい違うかなっていう。事業部長って給与が2000万とか3000万なんで、200万って大して変わんないだろっていうのは正直あったりしますけど。
つまりそんなに変わらない。

平均年齢と社内ポスト

あと平均年齢が高いってことは結構大事で。
商社のプレーヤーで一人前になるのって42歳です。30歳でやっと、ひととおりやったなっていう。35歳で平社員、40歳で平社員。
これ日系大手だったら大体そう。まあ銀行とかの方が悲惨ですけどね。ポスト少ないから上がれない、上がれないから最後出向して半沢直樹みたいな世界なんで、それに比べればましですけど。

平均年齢と社内ポストの数は絶対覚えていたほうがいいですね。
平均年齢が高いってことは自分にチャンスが回ってくるのが遅いってこと、社内ポストの割に人が多いってことは自分にチャンスが回ってくるのが遅いってこと、あと成熟した産業も自分にチャンスが回ってくるのが遅いってことですね。古い産業は、その業界にどれだけ長くいたかが勝負なんで。社内政治がうまい人が上がるってのも事実です。アレオレ詐欺(※)の横行とか。
業界が新しいと、目上の人と知識差がないんで、若手でも勝負できるんですけど。

※アレオレ詐欺とは(実用日本語辞典より)
他人が成し遂げた功績を「あれやったの俺なんすよ」と自分の手柄にしてしまうことを指す語。他人の成果を横取りするさま、またはそういう内容のことを吹聴する人を非難する意味で用いられる。

出向は悪い意味じゃない

子会社出向って言うと、やっぱイメージ的に半沢直樹じゃないすか。
商社の出向は別に悪い意味ではないです。実力をつけるための丁稚奉公みたいなもんです。商社ってばりばり営業してるイメージありますけど、商社で管理業務やって海外で研修やってると、6年目まで営業しないです。6年目8年目で出向して初めて現場の仕事、マーケティングとか営業とかするんですね。

MBAってどうよ

僕自身MBA取ってないんで、これはいろんな総合商社の先輩から聞いたことを話します。

●パターンA
「MBAとったら会社をやめると思われていたので、社内試験に3回も落とされたんですよ。マンションを会社から借金して購入することで会社に残る意思を示したらなんとか通ったんですよね。もちろんマンションは売却しました。」

●パターンB
「最初に入って勉強したこと。先輩がとにかく偉い、年功序列を学んだ。ゴルフで『ナイスショット』とお世辞を言わなきゃいけない。同期の能力も経歴もほとんど一緒だから、先輩にとって気持ちいいやつがやっぱり出世するんですよ。『ナイスショットです!』と"ナイスショット"を丁寧語にして言っている同期を見て、ここにいられないなと思いましたね。
最初経理だったんですけど、仕事頑張ったら、上司から『財務経理に残してやる』とか言われてしまって。気づいたら一生経理にいなきゃいけない事になっててMBA行ったんですよね。MBA行けば他の部署にいけるから。」

●パターンC
「シリコンバレーに研修に行って、そこで出会った人が共通してもってたのがMBAで憧れた。会社の金で行くほうが経済的だと思った。アメリカでは、総合商社のビジネスの理解を得るのが難しい。GEの小さい版といえばなんとか理解してもらえる。12年ビジネスをやってきてなぜ今更ビジネスを習いに来たのか?と20歳で大学を卒業した飛び級の優秀な学生に言われて傷ついたことも。」

結局、僕の知ってる範囲では、MBA取った人は男女問わずみんな総合商社辞めちゃいました。これが何を意味するかは、まあMBA取ってないんで分からないですけど。

商社って意味あるの?

取引企業にとって何がいいかって言うと、任せれば全部やってくれるんですよ。いい素材調べてくれとか、これどういう販路でやろうかとか、この製品をどうやって売ってこようかとか、任せれば全部やってくれるんです。商社の子会社と仕事すると、親会社のネットワークをうまくまとめて仕事作ってきてくれる。取引企業が自分の弱点を補いながら仕事ができる。商社の仕事って、ホント人脈勝負みたいなとこあって、誰がどういう風につないでくれるかが非常に大事なんですね。

専門商社も同じ。専門商社だからどうってわけじゃない。ただ、その業界が伸びるなら強いし、伸びないなら弱い。

若手で大きな仕事がしたい

大きなプロジェクトが難しくて小さなプロジェクトが簡単って前提になってると思うんですけど、大きなプロジェクトでも、細分化したら簡単な仕事めっちゃあるじゃないすか。当たり前なんですけど、はいどうぞ、デカい仕事まわしてね、ってできるわけないので、そんな任せ方しないですね。商社のでかい、ってデカさ側の基準が違うので。ン億とかン百億とかン兆円なんで。それを1年目に任せるなんてスーパーリスキーじゃないですか。まあやらないです。
ただそれをプロジェクトチーム組んで何人かでやるんで、その中には入れます。

「ほぼ全員希望部署に配属」の真実

(例えば、バナナを担当した人はずっとバナナなんですか?)
はい。
(永遠に?)
はい。
(変わったりしないんですか?)
変わらないです。
(それは会社から言われたらやるしかないのか?)
ほぼ運ですね。希望は出せますけど。
ま、大概の人はそもそもどれやりたいとかないんで。

商社の人事に、希望部署にどれくらい配属しますかって聞くと、ほとんど希望部署に配属しますよって答えます。なぜそうなるかって言うと、だいたい商社に受かるような人は、とりあえず何やりたいか決まってないんですよ。決まってない人どこに配属したって問題ないでしょ。それが実態です。

伊藤忠では、希望部署5個選んで、入りたい%を記入してくださいって言われるんですよ。でも、そもそもカンパニー全部で6個しかなくて、それに加えて会計とか人事とか総務とかが加わって、全部で10個もないんじゃないかな。しかも希望する5個のうち、バックオフィス部門も2つ含めて書いてくださいって言われるんですよ。強制的に。5個の中に、自分の志望してないものが、仮に営業を志望してたとしても、自分のやる気のないバックオフィスを書かなきゃいけないんですね。その中のどれかに当てはまったら、その人は志望が通ったって言えちゃうから。ま、そんな世界です。

部署は結構つぶれる

当たり前なんですけどつぶれます。つぶれない会社がないのと同様に、つぶれない部署もないです。面白い話で、つぶれそうになったら、まず優秀な人から抜けてきます、会社から辞めていきます。そもそも自分の持ってるスキルを伊藤忠の他の部署で活かすよりも効率いいから。

エビがすごい人が、おまえじゃあ明日から米やって、って言ってもできないすよね。そしたら他の会社で自分のスキル使って儲けりゃいいんです。そういう人は外からヘッドハンティングくるんですよ。うちでエビやってよって。一方で、できない人は転職しようとしても声かかんないんすよ。どうなるかっていうと、つぶれる最後まで残んないといけないんですね。で、しょうがなく他の部署行くんですけど、そこでどうなるかっていうと窓際族です。会社の中で、まあ社内ニートになっていく感じ。その部署ですらできなかった人が、外に出てできるかって言うとそうでもないじゃないですか、専門性もないので。でもその人を会社はクビ切れないんですよ、会社が存続している以上。
仕事が回ってこない、暇してる、毎日定時に行って定時に帰って1500万もらえるっていう、ある意味幸せな人生なんですけどね。

すごい怖いことがあります。
具体的に言えば、例えば*****を扱ってる部があります。その中の課で、本当に店舗の陳列をどうするか考えてる部署もあれば、データ見てマーケティング考える部署もあるんですね。こっち(マーケティングの方)行ってれば大丈夫なんです。仮に*****の部署がつぶれたとして、他の部署で活かせるから。まあうち来なよとか言われるわけです。一方店舗のほうだったりする時に、結構きつい。
その辺が自分で決められないっていうのは、商社のポイントかなとは思います。

付録:総合商社のキャリアパス例

1-3年目:本社、管理業務
└定量的な部分、数字の感覚をつかむ。

4-5年目:海外、研修
└数カ月語学学校(給料出る)。勉強した語学を使って管理業務

6-8年目:子会社、出向勤務
└修行。銀行の出向とは異なる。現場の営業などを学ぶ

9年目以降:ケースバイケース
└それまでの実績次第

part1: 商社って意外とホワイト
part2: 面接の「都市伝説」