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【SaaS業界解説】事例から学ぶ、基礎知識とトレンド

皆さんは「SaaSとは何か」と聞かれて、自分の言葉で説明できるだろうか? はたまた「なぜ今こんなにも伸びているのか」「SaaSの仕事って何をするのか」と聞かれたらどうだろうか? 耳慣れたキーワードでも、実は本質を理解できていないことは多いもの。しかしSaaSはとても奥が深く、知れば知るほど面白いビジネスモデルなのだ。当記事では、日本で注目されているSaaS企業の事例を交え、SaaSについて一から詳しく解説する。

Sep, 16, 2021

Sansan株式会社

大津 裕史 氏

顧客とwin-winの関係が築ける画期的なビジネスモデル

SaaS(Software as a Service)とは、クラウド経由でソフトウェアを提供するビジネスモデルのことです。SaaSの登場により、利用者は必要なソフトウェアを一つひとつ自身のPCにインストールすることなく、インターネットを通じて必要な機能を必要な分だけ利用することが可能になりました。

初期費用の安さや気に入らなければ解約できるリスクの低さなどを理由に、従来型のソフトウェアからSaaSへの移行は年々進んでいます。2016年時点では国内のソフトウェア市場においてSaaSが占める割合は3割程でしたが、2023年度には5割程度に達し、その後もSaaSの利用は増加していくと予測(※1)されています。

私たちの生活でも、例えば自宅で映画を観る際、かつては店舗でDVDをレンタルしていましたが、最近ではNetflixやAmazonのようなサブスクリプション型のサービスを利用する機会が増えました。同様にビジネスの世界でも、SaaSの台頭によりこれまでの商流に大きな変化が起きているのです。

SaaSの大きな特徴は、「顧客の成功の最大化が自社の利益になる」という点にあります。なぜならSaaSは、顧客がサービスを使い続けてくれることで、企業が収益をあげられるビジネスモデルだからです。少しでも顧客に不利益が生じれば、解約に繋がりかねないため、顧客との信頼関係をひたむきに構築し、サービスを使い続けてもらうことが大切です。つまり、顧客の継続利用とそれによる成功こそが、売上の最大化に直結する極めて重要な指標になります。

次章以降では、近年存在感を強めるSaaS企業である、Sansan株式会社の実例を元に、彼らがどのように顧客の成功を後押ししているのかを見ていきましょう。

※1 出典:富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2019年版」

ゼロから新市場を創造した日本発SaaSの雄、Sansan

Sansanが展開するのは、社内の名刺を一括管理することでビジネスのはじまりを後押しするクラウド名刺管理サービスです。「名刺管理」というこれまで存在しなかった市場を創造し、8割超という圧倒的な市場シェアと、官公庁や大手企業を含む6000件以上の導入実績を誇ります。

そんな同社の特筆すべきポイントは、平均解約率が0.6%と極めて低い水準であること。これは取りも直さず、顧客の満足度が非常に高いということです。その理由の一つに、日本のSaaS企業としていち早く、顧客の成功を支援する専門部隊「CS(カスタマーサクセス)」を設置したことが挙げられます。

CSは、自社のサービスを通して顧客を成功に導くことで、契約期間の更新や契約金額の増加を促し、収益を最大化することをミッションとした役職です。受動的に顧客の要望を満たすカスタマーサポートとは異なり、能動的なアプローチを行うことが特徴です。SaaS企業がCS部門を設けることはスタンダードになりつつありますが、Sansanは他社に先立ち、顧客満足の追求に投資をしてきました。

また、CSのみならず、開発・マーケティング・営業などすべての部門が顧客への価値提供を強く意識しており、一貫して顧客ニーズに真摯に寄り添う姿勢に同社が選ばれる所以があります。実際に2020年6月には、オンライン商談で名刺交換ができる「オンライン名刺交換」の機能(※2)をリリースし、コロナ禍における企業のリモートワークシフトにいち早く対応しました。

ここからはSaaSを提供する上での仕事のやり甲斐や、コロナ禍の逆風をどのようにして追い風に変えたのかなどについて、同社CPO(Chief Product Officer)の大津裕史氏に話を伺いました。

※2 オンライン名刺交換機能とは:紙の名刺のデータをスキャンすることにより、Sansan上で発行されるデジタルの名刺を持つことができる機能。発行されたデジタル名刺のURLを相手に伝えると、名刺データを受け渡すことができる。受け取る側は、Sansanを利用していなくても、名刺の受け取りや自分の名刺の返送が可能。

SaaSの醍醐味は、変化を最速で捉えた価値提供にあり

──コロナ禍で迅速に新機能をリリースできた理由を教えてください。

大津 実はオンライン名刺の企画自体は昨年から準備していました。当初は東京オリンピックを目途にサービスをリリースしようと考えていたのですが、コロナの影響もあり、最速で取り組むことになったんです。社内で「コロナをチャンスに転換しよう」という機運が高まり、サービス開発に関わるメンバー全員の温度感が揃ったことも、迅速なリリースに繋がった要因だと思います。

──オンライン商談の需要を早くからキャッチして、準備されていたんですね。他にも新たな取り組みを進められているのでしょうか?

大津 オンライン名刺に留まらず、ビジネスでのオンラインの出会いをいかに広範囲且つ正確にデータ化するかというテーマに力を注いでいます。そうした「出会いのデータ化」を進めることで、イノベーションが起きやすい環境を作ることができますし、それは世界でも必要とされるチャレンジだと思っています。

例えばある企業でコロナの感染者が出た際に、Sansanを導入していたおかげで、その企業の誰といつどこで接触したかという履歴を簡単に把握できたという話がありました。しかし海外では特定のプロダクトが役立ったという話は聞こえてきません。GAFAのようなテック・ジャイアンツでさえ、「企業活動における人と人との接点情報をデジタルで持つ」という部分はあまり重視していない印象なので、そこには大きな伸びしろがあると考えています。

──現在のチャレンジやSaaSの面白さを教えて下さい。

大津 激しく変化する世の中に対して素早く的確にプロダクトをフィットさせていくという営みは、難しいですがとてもやり甲斐があります。これまで日本と欧米との間には常にトレンドのギャップがありましたが、コロナによる環境変化は全世界同時スタートです。この変化を最速で捉えればグローバルで抜きん出ることができるというのは、今までになかった機会です。もちろんライバルも多く難しい挑戦ですが、そこに面白さを感じています。

SaaSという観点だと、大きな影響力を持てることですね。一社一社へのコンサルティングでは、自分の労力に対して与えることのできる影響範囲は限られますが、SaaSは一つ改善をすればそれが数千社、数万人の役に立ちます。同じ労力と思いを込めて取り組むのであれば、個人的には後者のほうがより意義を感じられると思います。

──常に時代の先を見据えながら、顧客が何を必要としているのかを貪欲に思考し続け、スピーディーに価値を提供する。そんな姿勢こそが多くの顧客に支持される優れたSaaSを作る上で欠かせない要素であり、数千人、数万人と非常に大きな範囲に影響を与える点も、SaaSに携わる大きなやり甲斐だと言えそうです。

「SaaS」というビジネスモデルを企業探しのヒントに

日本のSaaSの市場規模は直近5年間で165%もの成長が予測(※3)されています。成長可能性の大きなSaaS市場で高いシェアを獲得している企業では、事業拡大に応じて責任者のポストが増え、若くして大きな裁量を持つチャンスがあります。成長環境を求める人にとってSaaS企業は魅力的な選択肢だと言えるでしょう。

そして企業選びで何よりも大切なのは、自分の目的に合った切り口を持つことです。「顧客貢献を大切にして働きたい」「仕事を通して世の中に大きな影響を及ぼしたい」という目的を持つ方にとっては、SaaSというビジネスモデルは企業選びのヒントになるでしょう。実際に顧客とwin-winの関係性を築けるのか、ビジネスモデルが労働集約的でないかを確認することで、より目的に合った会社を選ぶことができるはずです。

このようにSaaSのビジネスモデルが持つ特性を企業選びのヒントにしてみてはいかがでしょうか。

※3 出典:富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2018年版」

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Sansan株式会社

Interviewee

大津 裕史 氏

おおつ・ひろふみ

Sansan株式会社

執行役員 Chief Product Officer

京都大学卒業後、株式会社ビービットにて、デジタル領域を中心に企業のコンサルティングを手掛ける。2010年に株式会社WACULを創業し、代表取締役に就任。ウェブサイトの分析から改善提案まで行う人工知能を開発・提供する。2018年にSansan株式会社へ入社し、CPOとしてプロダクト戦略を指揮する。