YouTube、Netflixなど、ネットによる動画配信は当たり前になりつつある。数々の先端テクノロジーが、メディアビジネスの未来をどのように変えるのか。日本におけるデジタル配信プラットフォームの先駆けであるU-NEXTにその全貌を聞いた―。
―出版、ラジオ、映画、テレビと、歴史を振り返ると常にテクノロジーがメディアの在り方を変えてきたと思いますが、今、メディア業界に起きている変化はどのようなものですか
堤 ここ数年で再びメディアの世界が激変してきていると捉えています。デジタル配信サービスが本格化し、全てのコンテンツが一つのプラットフォームやデバイスの上で扱えるようになったことで、メディアによる業界の境界線が一気に無くなってきているのです。
―全てのコンテンツをデジタル配信できるようになったことで生じる変化の本質とは何なのでしょう
堤 デジタル配信の本質は、ビジネスにおける利害関係者が少なく、エンドユーザーにダイレクトにサービスを届けられることです。エンドユーザーから利用料を頂く収益モデルであれば、ユーザーのニーズや製作者の意向をより率直に反映させた、今までにはないコンテンツを創れる可能性があります。これまでもさまざまなメディアのフォーマットやビジネスモデルに応じて作品の在り方が制約を受けてきましたが、その制約がほとんど無くなるということが本質的な変化なのです。
―技術こそがメディアの在り方を変えてきているのだとすると、デジタル配信においてはどのような技術が重要となっているのでしょうか
堤 技術というと「機能」のことだと考えがちですが、ユーザー体験全てを技術が支えています。映画であれば、作品の中身だけでなく、映画館という環境やサービス全体を通じて、お客さまは価値を感じ取りますが、デジタル配信の場合には、ユーザーとの接点となるインターフェースがその全てを担います。そのため、高画質で途切れない映像配信、扱いやすいボタン、見たい作品を簡単に探せる機能など、常に心地よく使えるように技術を突き詰めていく必要があるのです。
ルートン ユーザー体験を支えるより高度な技術として、例えばレコメンデーションという技術があります。世の中には数十万のコンテンツがあるので、ユーザー自身も自分の見たい作品を分かっていない場合も多く、デジタル配信サービスでは「ユーザーに本当に見たいものに気付かせる」ことが重要になります。米国のあるサービスでは視聴の実に7割以上がレコメンドによるものとも言われており、ユーザーに正しいコンテンツをレコメンドできるか否かが、多大なビジネスインパクトをもたらすのです。現在はナイーブベイズ法を用いた機械学習の段階ですが、今後はニューラルネットワークを用いたディープラーニングといった技術がレコメンデーションに使われていくでしょう。
―技術力をどれだけプラットフォームとして形にできるかが問われているかと思いますが、U-NEXTではどのような組織を目指しているのでしょうか
ルートン 「開放」的な「自己組織」です。開放とは技術的な情報のみならず、サービスの方向性など全ての情報を技術者全員で共有することで、単に決められた通り作るのではなく、より良いサービスを創っていくという個々人のマインドを醸成できます。
堤 自己組織とは、ヒエラルキーによる管理をせず、チームメンバー全員がフラットであることを指しています。ヒエラルキーがあると、リーダーが開発と商品の方向を決めるので、リーダーの限界がプロダクトの限界になってしまいます。一方で自己組織の場合、メンバー全員が主体的に開発の方向性に関与するので、組織全体の問題解決能力を高めるのです。
―今後、デジタル配信が普及し、メディア環境が大きく変化していく中で、U-NEXTはどのような世界を目指していくのでしょうか
堤 ユーザーに徹底的に向き合い、良質なコンテンツを提供することで事業を拡大させ、それによってさらにユーザーへの付加価値を向上させる。このサイクルを続ければ真に自由に魅力的なコンテンツ制作に向き合うことができるようになる。そうなれば素晴らしいと思っています。
ルートン 最終的にはユーザーが何かを見たいとき、場所を選ばず、私たちが作ったサービスを意識することさえ無く、見たいものが自然と最高の品質で流れてくるような配信システムを実現させたいです。
▼エンジニア・デザイナーの方
株式会社 U-NEXT
堤 天心 氏
つつみ・てんしん
株式会社 U-NEXT
取締役 NEXT事業本部長
リクルートを経て、USENへ入社し、SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オンデマンド)サービスの立ち上げを行う。2013年3月より現職。
Rutong Li 氏
株式会社 U-NEXT
R&D部 スクラムマスター兼CTO
オンプレインフラの構築運用、クライアントアプリケーション制作、ビックデータ解析など、あらゆる経験を持つ、社内の開発系コミュニケーションの仲介役。