日本を再生し続ける男。

May, 15, 2012

株式会社経営共創基盤(IGPI)

冨山 和彦 氏

外資系のコンサルティングファームを経て国内独立ファームを興し、その後も産業再生機構COO、経営共創基盤CEOと独自の道を歩み続ける冨山和彦氏。 東京大学を卒業しながら、安泰な道を選ばず常に社会の第一線で勝負し続けてきた冨山氏に、読者が就職活動をする上で知っておかねばならない社会の動き、その中でとるべき考え方・行動について、アドバイスを語ってもらった。

世の中で普遍的に起こり続けていること-パラダイムシフト

時代々々を作り上げているパラダイムはすぐに変わってしまうものです。歴史を振り返ってみても、20年や30年のサイクルで確実に、パラダイムが移り変わってきているのです。私が大学を卒業した1985年頃は、長銀(日本長期信用銀行)・興銀(日本興業銀行)が日本の頂点に君臨していました。高度経済成長からバブル期に至るまで、資金の流れを一手に引き受け、絶大な覇権を誇っていました。しかしご存じのとおり、バブル崩壊後の金融機関再編で二行は姿を消し、あるいは名前を変え、権力構造はすっかり変わりましたね。また逆に、いま覇権を極めているグーグルは、インターネットの普及というパラダイムの大転換前には、誰も知らない企業だったわけです。それが20年もしないうちに、世界のトップを走るような企業になっているのです。

パラダイムシフトはこれからも繰り返す

人間は愚かにも、過去にパラダイムシフトが起こったことは知っていても、今あるパラダイムが変わってしまう可能性は考えないのです。20年前は無名で、今有名な大企業が、この先ずっと有名で覇権を持ち続けると思ってしまうのです。しかし、現在のパラダイムが成り立つのも、それを支えている前提条件があるからにすぎません。技術革新や制度変更などにより前提が覆ったとき、覇権の構造も簡単に変わってしまうのです。そこで「これからどんなパラダイムシフトが起こるだろうか」と考える人もいるかもしれません。しかし、こればかりは誰も知りえません。あまりにも変化の要素が多すぎるからです。10年先のことさえ確実に言い当てられる人はいないでしょう。

こざかしい計算をしない

いま就職活動をしている皆さんは、現在のパラダイムが長続きしない、ということを頭に入れて、就職先、さらには職業人生全体を考えなければなりません。もしかすると「こういうキャリアを狙えばこれくらいの収入が得られ、こんなポジションにつけて、これだけ余暇も過ごせて」といろいろ計算してキャリアを考えているかもしれません。ただ、パラダイムがどう変わるかわからない世の中で、そんな計算はおそらく全く意味がないでしょう。5年後のことならまだしも、10~20年後に業界および各企業がどうなっているかなんて、誰も答えを持っていないわけです。しかも皆さんが知りえている知識は、世の中の実相のごく一部です。わずかな知識をもとにこざかしく計算しても、何にもなりませんね。私は元来、こう生きれば正解、なんて言われていたものを信じていませんでした。私が新卒で入社したボストンコンサルティンググループだって、当時は「何その会社?」と言われるような会社でした。今ではコンサルティング自体が日本に浸透し、皆さんがこぞって入りたがるような組織になっています。今後も、そのようなパラダイムシフトが起こらない方がおかしい。今は名前も知られていないような小さい会社、マイナーな業界が一躍トップに躍り出る可能性もあれば、停滞した伝統的組織が息を吹き返す可能性もないわけではないですよね。

職業人としての足腰を鍛えておけ

こざかしく計算している人たちが就職先に選ぶのは、ほとんどが既に有名になった大企業でしょう。人気の企業としてもてはやされているところに、こぞって入っていき、大組織のサラリーマンとしてのキャリアをスタートさせるのです。ただし、その大企業での出世競争など、しょせん「ごっこ」でしかありません。出世を決めるのは、たまたま上司に好かれるとか、宴会で人気を博すとか、それくらいの違いに過ぎません。その「ごっこ」に勝っても、大企業を出て、自分の名前で仕事をする力はつかないのです。しかもその大企業だって、今後のパラダイムシフトによっていつ潰れるか、落ちぶれるかわかりません。ひとつ、覚えておいてほしいことがあります。それは、若いうちにこざかしく計算し「うまく世の中を渡っていければ満足」と考えていたような人たちも、40代くらいになると急に「自分が社会に残してきたものは何だろうか、真剣に取り組めてきただろうか」と気になり始める、ということ。特にインテリの人たちは皆そうです。そしていきなり社会貢献とかやりがいとかが大事だ、と言い始めるのです。しかし、その社会貢献ややりがいを形にできるかどうかは、その前の時間をどう過ごしたかにかかっているのです。すなわち、新卒で社会に出てから10年ないし15年程度の間で、企業の名前に依存しないプロフェッショナルスキルを身につけておくべき、ということです。いわば、職業人としての足腰を鍛えておく時間として、真剣に仕事をして自分のプロフェッショナルスキルを高めることでしょうね。

東大・早慶生へのメッセージ

大企業や、既存のできあがった組織で働くことを否定しているのではありません。そうした安定した働き方があることが社会的には健全でしょう。しかし、皆さんのような東大や早慶の学生には、そんな安定は本来必要ないでしょう。それなりに優秀とされ、社会からも十分な投資を受けて恵まれた環境で学び、優遇されている存在の皆さんですから。漫然と大企業のブランドの寄りかかったキャリアを歩むのではなく、何の保障もない状態で、企業の名前に頼らなくてもどこでも通用するプロフェッショナルスキルを身につけ、ひとりの職業人として勝負できるような人材を目指す道を選んでほしいと思います。

株式会社経営共創基盤(IGPI)

Interviewee

冨山 和彦 氏

とみやま・かずひこ

株式会社経営共創基盤(IGPI)

代表取締役CEO

東京大学法学部を1985年に卒業後、株式会社ボストンコンサルティンググループを経て、国内初の独立系戦略コンサルティングファームである株式会社コーポレイトディレクションの設立に参画、2001年に代表取締役に就任。 その後、産業再生機構COOとして、ダイエーやカネボウなどの大企業から、中堅メーカーまで数々の企業を再生に導く。 現在は2007年に設立した株式会社経営共創基盤のCEOとして、ハンズオン型のコンサルティングビジネスを通じて、創業時・成長段階・再生など、企業の様々な段階における経営支援を実施している。