「利他主義」を掲げて世界の課題解決に挑む

Oct, 13, 2015

株式会社LIFULL

井上 高志 氏

「経済的な成功=幸せ」という価値観は絶対ではない

これからの世界におけるキーワードは「利他主義」「公益資本主義」だと考えています。世界経済の中心が欧米から新興国にシフトし、欧米の地位が揺らぐ中で、特に先進国において、「経済的な成功=幸せ」という価値観が絶対ではなくなってきました。国内でも、低空飛行を続ける日本経済の中で育ってきた若い世代は、金銭的報酬よりも公益的な観点や社会的な意義を重視して仕事選びをする傾向が強くなってきたように感じます。

社会に眠っている需要と供給をマッチングする

40年後の世界の人口は100億人に届くと言われます。資源不足は深刻な問題になるでしょう。そこで重要なのは、限られた資源や労働力を適切にシェアして支えあう仕組みを確立することです。幸いなことに、そのためのテクノロジーは急速に進歩しています。例えば、以前は一人の人間は一つの企業に雇用されることが一般的でしたし、個人が他の個人や組織のアイディアを金銭的に支援する仕組みはごく限られたものしかありませんでした。しかし、Webの発達と普及により、クラウドソーシングやクラウドファンディングなど、偏在している細切れの知恵や能力、時間を適切に価値転換するためのサービスが生まれてきたことで、組織に所属しない知識労働が可能になり、少額の個人間支援も可能になっています。このようにまだ出会えていない人と人、知られているべきなのに埋もれているモノなどを繋げる仕組みを創ること、つまり、今はまだ社会に眠っている需要と供給をうまく結びつけ、発展させていくことは、社会を変える大きな力となり得ます。

データベースとコミュニケーションで一人ひとりに最適な情報を提供する

LIFULL(旧・ネクスト)では、中期経営戦略として「DB+CCS(データベース+コミュニケーション&コンシェルジュ・サービス)でGlobal Companyを目指す」を掲げ、世の中に溢れている大量の情報を蓄積・整理・統合し、情報を必要としている消費者に最適なものを提供する取り組みをおこなっています。日本最大級の不動産・住宅情報サイトである『LIFULL HOME'S』をはじめとする事業を通して、暮らしに関わる価値あるマッチングを実現するためのデータベースの整備をおこない、その中から一人ひとりにぴったりな情報を提供していくことに力を入れています。また、その実現に必要な技術革新に対しても積極的に投資をおこなっています。

不動産情報を透明化し、消費者の不便・不利を改善する

現在のメイン事業である『LIFULL HOME'S』は、家を借りる・買うといった人生における非常に重要な意思決定をする消費者にとっての不便・不利な状況を改善するために始めた事業です。不動産業界はまだまだ消費者への情報開示が不十分な状態にあります。既得権益者が情報を囲い込み、競争を阻害していることでマーケットの成長を妨げていると感じます。いまだ志半ばですが、私たちは日本にある全ての物件情報等をデータベース化することで不動産情報の透明化を促進していこうとしています。年間一億人を超えるサイトユーザーの生の声を武器に、消費者にとって不利となる規制や商習慣を改めるべく、国に対しても働きかけをしています。このデータベースを活用し、待機児童問題解消のために、小規模保育所向けの物件を検索できるシステムの提供なども始めています。今後はニーズの増加が見込まれる高齢者向け物件への転用や、特定の趣味を持った方向けのシェアハウスなど、今ある住宅と社会的要請の強いニーズとのマッチングも進めていきたいと考えています。一部では少子高齢化により不動産取引が減少していくとの見方がありますが、不動産情報市場には今後ビジネスとしても大きなチャンスがあると考えています。

情報の非対称性という社会的課題をビジネスで解決する

このように不動産業界をはじめ、世の中には「情報の非対称性」、すなわち力の強い者への情報の偏在によって消費者が不利益を被っている分野が多くあります。LIFULL(旧・ネクスト)はそうした課題を「ビジネスを通して解決する」ことを標榜しています。例えば、既に新規事業としておこなっている、地域の活性化を目的とした地域情報サイト『Lococom』(ロココム)や、暮らしとお金の情報サイト『MONEYMO』(マネモ)に加えて、今後も暮らしに関わる領域で新規事業を立ち上げていきたいと考えています。地域活性などの社会問題というと、本来は行政が取り組むべき課題かも知れません。NPOで志をもって活動されている方も多い分野です。ただし、大きなインパクトを継続的に与え続けていくには、効率的な収益構造の確立が必要不可欠です。そのため冒頭で述べた「公益資本主義」の考え方、すなわち収益を上げ続けるビジネスモデルで課題解決の仕組みをつくることが必要だと感じています。みなさんの中には『ビジネス=金儲け』『社会のための事業=NPO、ボランティア等』と考える方がいるかも知れませんが、私たちはそうは考えていません。ビジネスとはそもそも、社会のためにおこなわれるものだと思います。現在、個人的にアフリカにあるベナン共和国の産業を支援し、日本とベナンの新たな商流を開拓しようという産業支援プロジェクトを進めています。このプロジェクトに関しても、ビジネスモデルを作りこみ、寄付に頼らない持続可能な仕組みを確立しようとしています。

日本人の「利他の心」で世界の課題解決に取り組む

昨今、国際経済の場で日本は立ち遅れているといった議論がよく聞こえてきますが、私はそうは思いません。先日話をしたアフリカの首脳は「アフリカに多くの海外企業が進出しているが、お金や技術の提供にとどまることが多い。倫理観や安全に対する考え方の教育をおこない、高品質なモノづくりをするための価値観を定着させることで、支援がなくても再現が可能な仕組みづくりまでを意識した事業展開をしてくれるのは日本企業以外にはない」とおっしゃっていました。日本を尊敬し、感謝してくれる国が海外にたくさんあることをわれわれ日本人はもっと知るべきだと思いますし、日本人の「利他の心」は世界のどこにいっても通じます。LIFULL(旧・ネクスト)は「利他主義」を掲げながら、今後も世界中の国が抱える課題に対して解決策となるビジネスモデルを実現できる企業でありたいと考えています。また、そのような強い志を持った若者にこそLIFULLの門を叩いていただき、共に社会問題の解決に挑戦して欲しいと思っています。

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株式会社LIFULL

Interviewee

井上 高志 氏

いのうえ・たかし

株式会社LIFULL

代表取締役社長

1968年横浜生まれ。1991年青山学院大学卒業後、リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)入社。入社3ヶ月でリクルートへ出向・転籍。1995年同社を退職。「不動産業界の仕組みを変えたい」との信念のもと、1997年3月ネクストを創業。住宅・不動産情報サイト『HOME'S』を立ち上げ、掲載物件数No.1の規模にまで育て上げる。2011年からは『HOME'S』のアジア展開にも着手。日本のみならず、アジア圏内で人々がスムーズに移住できる情報インフラの構築を目指す。2006年10月東証マザーズ上場。2010年3月東証一部に市場変更。