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「研究者にビジネス視点は要らない」 東京大学エッジキャピタルが国内発・産学連携エコシステム構築に挑む

近年、最先端研究から生まれた大学発ベンチャーが注目を集めている。ただし研究から持続的にイノベーティブな事業を生み出して、利益を社会に還元していくためには課題も多い。産学連携によるエコシステムの構築には、何が求められるのか。UTEC代表・郷治氏に聞いた。

Jul, 08, 2016

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)

郷治 友孝 氏

世界を変える技術は、科学的な動機から生まれる

2016年3月に日本ベンチャー大賞を受賞した、ペプチドリームという東大発ベンチャーをご存知ですか? ペプチドリームは、化学物質で創っていた薬を、タンパク質の破片のようなペプチドから創るという、桁違いに革新的な基盤技術を開発しました。この企業に今、世界中の製薬企業から協力の依頼が次々と舞い込んでいます。

また、MUJINという同じく東大発のロボットベンチャーは、画像認識技術と最適な動作計画の生成技術を用いて、ロボットを知能化することに成功しました。2016年6月、アスクルと業務提携し、物流センターにおける商品のピッキング作業にロボットを導入しています。ロボット自ら判断し動作できるようになれば、世界中の産業用ロボットの活用範囲が飛躍的に広がるでしょう。

このように、大学の研究に端を発して生まれたベンチャーが今、国内外から注目されています。大学発ベンチャーに共通しているのは、いずれも世界に前例の無い独創的な技術を持っていること。こうした技術を生み出せるのは、事業目的ではなく、純粋に科学的な動機によって研究をしているからでしょう。これが民間企業にはない、大学発ベンチャーの強みと言えます。

「知」を社会に還元する

東京大学エッジキャピタル(以下、UTEC)は、研究成果をビジネスにするために、シード・アーリーの段階から投資するベンチャーキャピタル(以下、VC)です。資金を投じるだけでなく、研究者と優秀な経営人材との接点を設けて事業計画を立てることで、事業化の部分を担います。

私が産学連携やシード・アーリー投資に注力している背景には、通産省で「投資事業有限責任組合法(VCファンド法)」の起草を担当した経験がもとにあります。独創性な技術やアイデアを用いてゼロから会社を興していく活動にVCの資金が向かうことを目指して作った法律でしたが、実際はIPO直前の企業にお金が流れてしまうことが多く、忸怩たる思いでした。

官僚を辞めたのは、役所で創った法律の理念を実践したいと思ったからです。国立大学が法人格を与えられ、経営努力が迫られたタイミングで、ベンチャーで技術を事業化していこうとする東大の産学連携を推進するべくUTECの立ち上げに加わりました。官僚時代に志していたシード投資に特化する方針を取ったときは、離れて行く創業メンバーも少なくありませんでしたが、10年にわたり約70社に投資する中で、9社が株式上場し8社がM&Aを果たすなど、成果が着実に生まれています。

エコシステム構築の鍵となるのは、産官学の役割分担

UTECが目指すのは、研究を事業にし、事業から得た利益を投資のみならず研究へと還元する、持続的かつ骨太なエコシステムを、日本を起点に作り上げることです。決して「世界を変える」ことだけを目的としているわけではありません。

本来、研究を事業化する部分は我々民間企業が担うので、国は大学へ研究資金を投じ、研究者は独創的な研究に注力することが望まれます。ところが最近では、国は、国立大学への予算を削っているにも関わらず、大学発ベンチャーの事業化を自分で担おうという政策が打ち出されています。このような政策によって、大学自体が事業化を目的とした研究に取り組んでしまっては、革新的な技術が生まれなくなり、本末転倒です。

エコシステムの構築に必要となるのは、産官学それぞれが、本分を忘れないことでしょう。とはいえ国は財政難で研究予算を削り続けていますから、見るに見かねて、今年、UTECで得た利益の一部を東京大学の研究に使ってもらうために寄付しました。

国境を超えた連携によってイノベーションを加速する

さらにUTECは、スタンフォード関係のStart Xという非営利のアクセラレータをはじめ、世界の技術や企業を巻き込んだインキュベーションへの取り組みを始めています。

たとえば、マーケティングに明るくFDA(アメリカ食品医薬品局)に近いアメリカの企業と、ものづくりの得意な和歌山の技術ベンチャーを繋げることで、米国の販売許可を得た例があります。両者は同じ滅菌技術を持っていたので、はじめは競合するつもりでいましたが、それぞれの強みを活かした合併に切り替えることで、結果的にイノベーションへの近道となりましたね。

UTECは今後も、産学の垣根や国境を超えて、先進的な科学技術力をもとに継続的にイノベーションを起こしていけるよう、VC投資に取り組んでまいります。

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)

Interviewee

郷治 友孝 氏

ごうじ・ともたか

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)

代表取締役社長
マネージングパートナー

1996年4月通商産業省(現経済産業省)入省、『投資事業有限責任組合法』を起草。文化庁出向、スタンフォード大学留学、金融庁出向を経て、2004年4月退官、UTEC共同創業。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。日本スタンフォード協会理事、日本ベンチャーキャピタル協会常務理事を務める。