世界が君の出番を待っている

一橋大学の教授であり、日本のイノベーション研究の権威でもある米倉誠一郎氏が、日本の教育の現状と本当に学び取り組むべき課題を就活生に語る。

Jun, 17, 2016

一橋大学商学部産業経営研究所

米倉 誠一郎 氏

日本のGDPに占める学校など教育機関への公的資本支出はわずか3.5%、OECDの中で6年連続最下位だ。

1910年ごろの日本は、欧米に劣らぬほど読み書き算盤といった初等・中等教育に力を入れていた。教育は結果が出るまでに時間がかかるから、この教育投資は高度経済成長期にようやく花開くことになる。ところが1969年、GDPが世界第2位になって以降、日本は経済の成長に合わせて高等教育を高度化することを怠ってしまった。

そのせいで諸君は、世界トップレベルの情報処理能力を身につけたのに、情報創造能力に弱さがある。本当に学ぶ喜びすら知らない。高度化とは、自分で課題を発見し、仮説を立て、新しい視点から問題解決をする、あるいは自分の意見を論理的に語る思考法を早くから学ぶことである。

しかし僕が薦めたいのは、プラクティカルな企業家教育などではない。むしろ、歴史や哲学、あるいは文学や天文学といった教養を学んで、おかしいと思うことにおかしいと言えるだけの知識ベースをまずは蓄えること。そして英語「を」学ぶのではなくて、英語「で」学び、世界の人とディベートする力を付けることだ。学生のうちに青年海外協力隊や国境なき医師団で働いてみるのも面白い。そうやって、いろいろな経験を通じて自分の世界を広げれば、自分の適性を知ることができる。就職先も、ある意味どこでも良いから4〜5年働いてみて、自分が本当に好きなこと、あるいは世界に与えたい影響を見つけ出し、今度はその道のプロになるための専門大学院に行けば良いと思っている。そして大学院の卒業時に初めて、どの会社、どの業種でも生きていける職業選択をしよう。それは決して「就社」ではない。本物の「就職」だ。

しかし、学部学生でも面白いことはできる。諸君くらいの年齢で国際教育支援NGOの「e-Education」を立ち上げた税所篤快君は、彼女にフラれたことがきっかけで、自分を変えようとバングラデシュに乗り込んだ。きっかけは単純だった。彼は途上国では圧倒的に教師が少ないという問題に直面した。そのときふと、自分が偏差値28の状態から予備校の映像授業を利用して早稲田大学に合格したことを思い出し、映像授業は教師が不足するこうした地域でこそ、真価を発揮すると確信したという。そこで貧しい農村の高校生に3カ月間DVD教育を実践してみると、なんとその中の一人が国内最高峰のダッカ大学に合格してしまった。「これはすごい!」とバングラデシュ政府は映像授業を国の教育の柱にしようとしている。さらに、このムーブメントはミャンマーやフィリピンにも広がりつつある。このように、諸君と同じ年齢の学生が企業や組織や国を巻き込んで、途上国の教育革命を起こした事例もある!

この世界には途上国はもちろん、先進国にも難しい問題が溢れている! しかし、自分なりの経験とロジック・知識をもってチャレンジすれば世界を大きく変えることもできる。

そこにこそ諸君の出番はあるんじゃないのかな。

どこでもいいから大企業に行きたい。そんなつまらない思いに大学生という素晴らしい時期を翻弄されるなんて、人生寂しくないか?

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米倉 誠一郎 氏

よねくら・せいいちろう

一橋大学商学部産業経営研究所

教授

1953年東京生まれ。アーク都市塾塾長を経て、2009年より日本元気塾塾長。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(PhD.)。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とし、多くの経営者から熱い支持を受けている。