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ITの力によって、誰もが勉学で道を切り拓くことができる世界を創る

アメリカやインドといった諸外国に大きな遅れをとる日本の教育。この問題に対して私たちにできることは何か。時代が大きく変わり、教育のあり方にも変革が迫られる今、EdTech領域に挑むマナボの三橋代表が、自身の生い立ちや原体験から生まれた教育への熱い思いを語る。

Jun, 15, 2016

株式会社マナボ

三橋 克仁 氏

激動する社会と40年間変化のない日本の教育システム

アメリカやインドは国家戦略としてScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)に精通した人材を輩出するため、STEM教育に力を入れています。インダストリー4.0(工業のデジタル化)を迎え、ますます理系人材の重要性が増した今、国の競争力を高めるためにファンドも設立し多額の予算を投下しているのです。さらにこうした国の方針を受け、教育用ゲームを開発したMicrosoftをはじめ、民間企業がテクノロジーを使って学力を底上げするような事業を次々と生み出しています。

一方で日本は、先進諸国に比べ、教育の改革が進んでいません。2020年にようやく大学受験の制度が変更されようとしていますが、それは実にセンター試験の前身となる共通一次試験導入から42年ぶりのことです。今の日本の若者は、少子高齢化に対応した新しい社会システムを考える必要がありますし、グローバル化に伴い世界の優秀な人材を相手に仕事を奪い合うことにもなるでしょう。それにも関わらず国の教育に対するスタンスは定まらないままです。

“レゴ型”人材の育成にはITが欠かせない

これから社会に出る若者に求められるのは、“ジグソーパズル型”ではなく“レゴ型”の学力です。“ジグソーパズル型”の学力というのは、答えのある問いに対し、早く正確に答えを出す情報処理能力を指します。一方で“レゴ型”の学力というのは、答えが無い問いに対し、自分なりの答えを創造する情報編集能力を意味します。誰も体験したことのない社会の変化に対応するためには、全員が同じことを学ぶよりも人それぞれに問いと答えを持っていた方が社会全体の生存可能性は上がるのではないでしょうか。そして一人ひとりにあった学習コンテンツの提供にはITが必要なのです。

しかし、高度経済成長期から変化の無い保守的な日本の教育業界では、創立30~40年の大手学習塾が覇権を握り続けています。新興企業の台頭がない教育領域には、ITがほとんど持ち込まれていません。インフラ面だけをみれば、本来、大手の学習塾がコンテンツをITに乗せて安く展開できたはずですが、既存の事業とのカニバリゼーションが起きるという理由から、実現には至らなかったのです。また、教育というのは言語の壁が大きく、国外のサービスとの競争が起きなかったことも、IT化が遅れた原因です。

恐怖をのみ込むほどの情熱のためにコンサルを蹴って教育を変えることにした

私は旧態依然とした教育業界に風穴を開けようと、教育×ITの領域での起業に踏み切りました。コンサルティングファームへの就職も考えましたが、シリコンバレーへ足を運んでみて、失敗することの恐怖をのみ込むほどの情熱が、教育という領域にあることに気付き、結局コンサルティングファームの内定を辞退したのです。早速オフィスを契約するために法人登記し、学習塾を間借りしました。創業メンバーであるエンジニア3名で毎日オフィスに泊まりこみ、寝る間も惜しんで開発する日々でした。こうして完成したのが、スマホ家庭教師『manabo』です。これを使えば、全国各地の学生が時と場所を選ばず、リーズナブルな価格で、優秀なチューター(講師)から指導を受けることができます。

スマートフォンを利用した『manabo』というコンセプトが生まれた背景には、私が7年間やってきた予備校教師の経験がありました。当時はメールや電話で質問に答えていたのですが、教師側は質問に分かりやすく答えることが難しく、生徒側は分からないことを分からなくなったタイミングで質問できないという問題点があったのです。『manabo』は最新の技術を用い、これらの課題を見事解決しています。

出自を問わず勉学で道を切り拓ける世界を目指して

情報収集の形はプッシュ型からプル型へと移行しています。つまり、こちらの意思と関係なく情報を押し付けられていたのが、検索することで情報を能動的に得る形へと変化しているのです。しかし私は、究極の情報収集のあり方はその中間にあたる“フェッチ型”だと考えます。これは、検索等の能動的なアクションなしに、今の自分に最適な情報が提供される状態を指します。

教育においてもこのフェッチ型情報収集を実現するため、マナボでは個別指導サービスで得られる音声、チャット、動画などのデータを貯め続けています。目指すのは、膨大なデータから原価ゼロで指導を提供できる状態です。例えばペンの動作情報をセンサーで取得し、悩んでいるポイントを把握します。不明点を言語化できない学生にとっては、検索することすら難しいですから、こちらからリアルタイムに手助けとなる適切な指導情報をお送りするのです。教育の世界では紙の慣習がまだまだ残っているために、データは蓄積されることなく捨てられてきました。今後はデータ取得の方法と、その活用方法の研究を進めることで、さらに理想的な教育のあり方を提案していきたいです。いずれは誰もが学ぶ意志さえあれば無償で学ぶことができるようになるでしょう。

私は画家の父を持ち、貧しい家庭環境の中で育ちました。宇宙飛行士になるという夢を叶えるために、父の絵を中学の校長先生に売ることで資金を得て、学習塾に通っていました。このとき親切な大人に出会っていなければ、筑波大付属高校へも東京大学へも進学することができなかったように思います。このように私自身、貧困な家庭の出自を勉学で切り拓いてきましたので、学ぶ人の出自や環境を問わず自由に好きなだけ学び成長することができる世界を創ることをこれからも目指して参ります。

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株式会社マナボ

Interviewee

三橋 克仁 氏

みはし・かつひと

株式会社マナボ

代表取締役社長

1987年生まれ。東京大学工学部卒・同大学院工学系研究科修士修了(機械工学専攻)。貧困家庭の出自を勉学で切り拓いた原体験と7年を超える個別指導の経験を活かし、効率的な学びを通じて人々がより幸せになれる社会を夢見て、大学院在学中に『manabo』の構想を開始する。2012年12月、大手コンサルティングファームの内定を辞退し、『manabo』開発に専念するために株式会社マナボを創業。2014年4月よりベネッセと「リアルタイム家庭教師」サービスを開始。