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新時代、変わるものづくりの形―日本発のハードウェア産業が、世界を根底から覆す

3Dプリンタやクラウドファンディングの登場によりものづくりが大きく変わっている。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代、日本のベンチャーにできることとは。TomyK代表・鎌田富久氏が産官学を巻き込んだハードウェア業界の今とこれからを語る。

Jun, 30, 2016

TomyK Ltd.

鎌田 富久 氏

日本の勝機となるIoT時代の到来

インターネット・デジタル領域において、日本はアメリカに勝つことができませんでした。なぜなら、インターネットビジネスには瞬発力が問われるため、資金と人材が一気に集まり、言語の壁が無かったアメリカ勢の方が、世界市場を獲得するのに有利であったからです。インターネットビジネスは一旦世界シェアを握られるとなかなか次の勝機が訪れませんから、世界に認知されている日本のインターネットサービスはほとんど存在しないというのが現状です。

ところがこれから、日本が世界に勝てるチャンスが到来します。ハードウェアとインターネットが組み合わさったIoT時代の幕開けです。過去日本は、製造業においては世界で勝つことができました。それは品質とコストの部分で先行者を上回る技術があったからです。ものづくりというのは、ネットサービスやアプリほど簡単ではありません。開発には長い時間と緻密なノウハウが要求されますから。だからこそ、もともと得意としていた高品質なものづくりが絡んでくるIoTは、日本にとって勝機になり得るのです。

コスト面だけではいずれテレビのように韓国や中国に負けてしまいますが、ハードウェアとシステムを組み合わせてサービスのプラットフォームになるようなものを製作できれば、世界で大勝できる可能性もあります。ですからTomyKは、革新的なテクノロジーによって未来のプラットフォームを生み出し得るベンチャー企業を支援しています。

ハードウェアベンチャーに追い風が吹いている

今、ハードウェアベンチャーに追い風が吹いています。かつて生産と流通、そして資金調達に存在していた障壁が取り払われたことに加え、ベンチャー企業と大手企業との連携が加速してきたからです。まず開発に関しては、3Dプリンタなどの手軽に使える工作ツールの登場が大きいでしょう。これまでのものづくりでは、大量の部品の設計、製造、組み立てをするために、大きな生産設備と、多額の資金、そして人材が必要でした。ところが、3Dプリンタはこれらの問題を解決してしまいます。誰でも安く簡単に試作を作れるようになったことで、ベンチャー企業にも勝機が訪れたのです。また、アマゾン・ドット・コムといったネット販売が普及し、在庫管理や発送・集金といった流通機能を外部に任せることができるようになったことも大きな変化です。

クラウドファンディングがものづくりの常識をひっくり返した

加えてクラウドファンディングの登場も見逃せません。企業が自社で先行投資をして量産し販売するというこれまでの流れではなく、商品を実際に量産する前にユーザーに事前予約してもらい、資金を調達できるようになったことで、事業を始めるハードルは著しく下がりました。つまり、お金が無くても、やる気さえあれば誰でもハードウェア製品を作ることができるのです。

BONX株式会社:楢崎雄太氏・宮坂貴大氏

しかしそれ以上に重要なのは、ファンのコミュニティをあらかじめ囲い込めるという点です。「本当に欲しいと言ってくれる人の意見を聞く」ことによって、製品の改善スピードを高め、ユーザー満足度を都度上げることができますし、次のプロダクトを出す際にもファンに使ってもらえる可能性が高まります。BONXのウェアラブルトランシーバー『BONX』もクラウドファンディングのメリットを存分に活かして成功していますよね。

オープンイノベーション:大手企業とベンチャーとの連携の可能性

さらには、大手企業とベンチャー企業との連携の流れが活性化してきたことも、ハードウェアベンチャーを後押しする大きな要因の一つでしょう。

これだけ豊かになった時代に消費者が求めるのは、自分の趣味や志向に合った尖ったプロダクトです。そのため、ものづくりビジネスでは、多品種少量生産が増えてきています。しかし関連部署が多く、事業計画を通すのに時間のかかる大企業にとって、少量生産は割に合いません。ここに生じる隙間に、ベンチャーにとってのチャンスがあるのです。

とは言っても、大手企業が持つ販売力や量産設備は、ベンチャーのそれとは比べ物にならないほど充実しています。そこで大手企業との提携が、イノベーションを起こそうとするハードウェアベンチャーの成長段階にとって重要になってくるのです。

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社:阪根信一氏

例えばプリンテッドエレクトロニクスを開発するAgICは三菱製紙やセメダインと上手く連携していますし、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズもパナソニックと連携して全自動洗濯物折り畳み機の生産を加速させていますよね。大手企業にとっても良い刺激となるでしょうし、こうした事例をどんどん増やしていきたいと思います。

新産業としての宇宙ビジネス

そんなハードウェアベンチャーのなかでも、個人的に注目している領域の一つに宇宙があります。宇宙産業に今起きていることには、かつてエアコンの効いた部屋に鎮座して大型だったコンピュータが、半導体技術の革新により自分で組み立てられるようになったとき(1980年代前半のパソコン時代の幕開け)と同様の衝撃を受けています。アクセルスペースの中村さんは、学生時代に国家プロジェクトだと思っていた人工衛星を、自分たちで作って打ち上げられたわけですよね。エールの岡島さんも、大学や研究機関を上手く巻き込みながら人工流れ星をつくろうとしています。

株式会社ALE:岡島礼奈氏

こういった産業としての大転換のタイミングは、一つの産業の歴史の中では一度しか訪れません。今後10年で宇宙産業には劇的な変化が起きるでしょう。今20〜30代の方々は幸運です。ここで頑張れば、世界を根底から変えられる可能性があるのですから。

もちろん宇宙産業を大きく発展させるためには、国の協力も不可欠です。ロケットで人工衛星を打ち上げる技術を持つ国は10カ国程度しかありませんが、日本はその中に入っておりアジアでは最も先進的な国です。日本ほど宇宙工学を教える大学が多い国もありませんし、多くの留学生を呼び込むと良いでしょう。国がJAXAのロケットや発射台を安く貸し出すなどして、日本のそして世界の優秀な学生が日本で宇宙ベンチャーを起業したくなる環境を整えれば、ますます宇宙産業は盛り上がるのではないでしょうか。国を挙げた戦略的な宇宙政策に期待しています。

20代前半の学生がベンチャーをやる気になる、これが重要

株式会社アクセルスペース:中村友哉氏

産学連携に関しては、20~30代の若き研究者にベンチャーを選択肢として考えてもらうことが最重要です。例えばアクセルスペースはAgIC同様、東京大学発のベンチャー企業です。大学の研究成果を事業化することで、国プロジェクトでしかできなかった宇宙事業を、民間企業としては世界で初めて成功させました。

AgIC株式会社:清水信哉氏

こうした事例は、潜在的にもっと出てくる可能性を秘めていると思います。これまでは優秀な技術者や研究者は大手企業に入るか、公務員になるか、大学に残るかという選択肢が一般的でした。そのため、ベンチャーへの就職や起業は、キャリアのラインを外れた感じになってしまうのでしょう。優秀な人ほどベンチャーに進むアメリカとは、この点が大きく異なります。しかし世界で活躍する起業家が増えれば、ベンチャーも一つの選択肢となるはずです。私が東京大学で講義をするのは、一歩踏み出す勇気の無い東大生に、ベンチャーで活躍するさまざまなOBOGがいること、そして今大きなチャンスがあることを伝えていくためです。東大を毎年卒業する3000人のうち1割の300人がベンチャーに進んだら相当すごいことになるでしょう。

もちろん全員が成功するわけではないですが、成功した誰かが周囲を吸収することもできますから、社会全体で見るとプラスになって成功することになります。そのためにTomyKでは、まずは大成功事例をいくつかつくりたいと思っています。

TomyK Ltd.

Interviewee

鎌田 富久 氏

かまだ・とみひさ

TomyK Ltd.

代表取締役&Founder

東京大学大学院理学系研究科情報科学博士課程修了。理学博士。iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引。東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESSを設立、2001年に上場、その後グローバルに積極的に事業を展開した。2012年4月にTomyK Ltd. を設立して、革新技術で日本を元気にするベンチャー支援の活動をスタート。