公認会計士が教える 『財務諸表の読み解き方』

戦略策定や投資判断といった、経営の意思決定を支える財務諸表。貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、そしてキャッシュ・フロー計算書(C/F)の基本的な読み方から見落としがちなポイントまでを、公認会計士でもある経営者が解説。

Mar, 11, 2016

株式会社エスネットワークス

下村 雄一郎 氏

財務諸表の読み解き方「 B/S、P/Lとは」

個人と企業とでは、お金の流れがまるで異なります。個人は収入があって初めて支出しますが、企業は収益を得る前に、まずは人を雇い、物を仕入れるため、支出を賄うための資金ニーズが先にくるのです。典型的には銀行から借入をし、事業で収益を上げながら返済することとなります。

返済が追いつくか否かは、経常利益と減価償却費の合計額に一定倍率(たとえば、平均借入期間が5年の会社だと5倍)を掛けた金額が借入金を上回るかどうかを見れば分かります。上回ればキャッシュが余っているため拡大成長の施策を、下回れば借入金の返済に収入が追いつかず、事業再生の施策を講じることとなります。

財務諸表を構成する主な資料

損益計算書(P/L):一定期間における企業の経営成績。収益-費用=利益となる。

貸借対照表(B/S):一定時点における企業の財政状態。資産-負債=純資産となる。

キャッシュフロー計算書(C/F):企業の血液とも言われる資金の流れ。

表1. 貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)

Point① 借入金
借入金とは、企業が金融機関などから借りているお金であり、将来約束した期日までに返済しなければならないものである。
なお、通常、企業は金融機関に対して借入金の一定割合を返済金額に上乗せして支払うことになるが、これを支払利息という。

Point② 減価償却費
企業が⻑期間に渡り事業に使用する建物や設備、機械装置などを購入した場合に、当該購入価額を資産として計上し、その使用する年数に渡って規則的に費用として配分した金額である。
そのため、現金支出と費用計上のタイミングが一致せず、減価償却費は、その計上時点では現金支出がない費用となる。

Point③ 経常利益
臨時かつ巨額な異常項目を除いた、企業全体の活動から得られた利益を表す。
異常値は除かれるため、本来企業が持っている強さを経常利益で見ることができる。

Column:財務諸表を読む
経常利益に減価償却費を足すことで、営業活動から獲得したキャッシュを簡便的に計算することができる。
例えば金融機関からの借入金の平均的な返済期間を5年の会社だとすると、借入金を経常利益と減価償却費の合計額で割ったときに、5年を超えているか否かで、企業の返済余力を見ることができる。
5年以下→返済余力があるため、拡大成⻑のための施策を講じる。
5年超 →返済余力がなく、資金的に困窮している可能性が高い。

キャッシュ・フローは嘘をつかない

現在の日本企業は6、7割が赤字だと言われます。しかし、実は赤字であってもキャッシュさえあれば当面は問題ありません。逆にいくらP/L上は黒字でも、キャッシュが無いために倒産する例も多く見られます。企業の真の健康状態はキャッシュ・フローに現れるのです(以下、C/F)。

そのため、経営コンサルタントがまずすべきなのは、B/SやP/Lを整えるのではなく、C/F(特に本業から稼ぎ出した資金を表す営業C/F)をプラスにすること。P/L上の利益に対する資金的裏付けをC/Fで明らかにすれば、債務を減らすべき程度も分かり、銀行等との交渉も有利になります。

ケーススタディ:事業再生前後で何が起こるか

一例として、経営不振に陥ったある企業について、事業再生スキームを実行する前後の財務諸表を表1、2にまとめています。

表2. キャッシュ・フロー計算書

Point④ 営業活動 C/F
本業たるビジネスから得られたキャッシュ

Point⑤ 投資活動 C/F
例えば、建物や土地の購入、有価証券の取得などの投資活動により発生したキャッシュ

Point⑥ 財務活動 C/F
例えば、銀行からの借入れ、増資などの投資活動により発生したキャッシュ

※P/Lの当期純利益は黒字であるにも関わらず、本業から得られたキャッシュがマイナスとなっているのは危険信号。利益を裏付けるキャッシュが生み出されていることが何より重要である。

表1のP/Lは一見すると黒字ですが、表2から分かるようにスキーム実行前の営業C/Fは赤字で、立て直しが必要な状況です。そこでエスネットワークスは常駐型コンサルティングを提供し、顧客企業のCFOとして銀行との交渉を含む「本業以外」の部分を支援しました。その間CEOは本業の改善に集中でき、結果的にスキーム実行後には営業C/Fの黒字化に成功しています。

事業再生の案件などは交渉完了まで5年程かかる場合もあり、常駐型支援だからこそ発揮できる介在価値は極めて大きいと言えます。

Column:利益が出ているから問題ないのか?
ー 答えは「NO」
P/Lは経済的実態を表現したものであるため、必ずしも「利益=キャッシュ」となるわけではない。
例えば、減価償却費(Point②参照)のように支出がない費用もあれば、現金がまだ入ってきていない売上もある。
そのため、営業活動からキャッシュを獲得できているか否か、すなわち利益を裏付けるキャッシュはあるのかどうかを見ることが重要となる。それは、キャッシュ・フロー計算書で見ることができる。

経営の意思決定に必要なのはジェネラリストの視点

コンサルタントは一般的にスペシャリストであることが多いですが、顧客となる経営者が重要な意思決定に際して求めるのは専門性でないケースが大半です。むしろ、事業再生からM&A、組織再編まであらゆる切り札を持ったジェネラリストとしての視点こそが必要とされます。特定分野に長けた専門家は、実は需要に対して供給過多で、稀少性は低くなりがちなもの。だからこそ、多面的観点をもったジェネラリストは重宝され市場価値が高くなるのです。

株式会社エスネットワークス

Interviewee

下村 雄一郎 氏

しもむら・ゆういちろう

株式会社エスネットワークス

執行役員

1978年生まれ。明治大学卒業後、2004年に公認会計士試験に合格し、同社に入社。上場/未上場 の決算業務や業務効率化の支援に従事し、2008年に関西支社長に就任。現在は執行役員、西日本 統括部長及びアライアンス事業部長を兼務。最近は主に、永続・発展をテーマに「事業承継」や 「アライアンス」を軸に活動中。