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東大出身弁護士が選択した起業家という異色のキャリア

競争原理の中で変革を迫られる“士業”と“ビジネス”

Mar, 11, 2016

株式会社サイトビジット

鬼頭 政人 氏

東大出身弁護士が起業に至るまで

私は東京大学在学中、週六日はボート部の活動に打ち込んでいました。というのも、高校・大学と、私は色々なことを同時並行でこなしていたのですが、それでは個人としての成長スピードが遅いと感じ、一つのことに集中して没頭すると決めたのです。そしてボート部の引退後、法学部にいながら法律について何も知らないことに危機感を感じたこともあり、部活動に注いでいた情熱は司法試験の受験へと向かいました。当時私が学部を卒業した年に国内でロースクールが創立されたのですが、ロースクール進学後二年目で司法試験に合格、弁護士としてのキャリアを歩み始めました。

弁護士の仕事は思い描いていた理想そのままにおもしろく、自分の性に合っているように感じましたし、周囲からも高く評価していただけました。そして数年の弁護士事務所勤務を経て、企業間紛争や民事再生などの企業法務に関わるうちに、法的観点だけでなく投資や経営的観点においても価値を提供できるアドバイザーになりたいと思うようになり、産業革新機構に移ることになります。そこでは法務領域を超えて、M&Aに際しての事業デューデリジェンスや、ストックオプション設計など、幅広い経営実務を学ぶことができたように思います。

その中で、続々と現れる同世代の経営者の活躍、生き様を目の当たりにし、私にもアドバイザーの立場から当事者として事業を手がける立場への思いが芽生え、次第に独立を考え始めました。もともと父がリストラに遭った時から、独立したビジネスパーソンになることを意識していましたが、いまの仕事からの延長上に考えられてしまう弁護士としての独立・成功よりも、一層チャレンジングな選択肢を取るべく、ビジネスの世界で起業することにしたのです。

士業も競争の時代、トレンドを掴んで生き残る

弁護士業界はムラ社会で、一般の人々との情報格差によって不合理に守られてきている部分もあり、「市民に寄り添った司法」という理想とは異なるのが現状です。弁護士自身の「先生」という意識が壁をつくり、顧客の課題解決に積極的に関与できていないことで、結果として事業の失敗を招いた事例は多くあります。特に中小企業の法務においては、事業承継など法律知識を十分に備えた弁護士が担うべき仕事であっても、企業側に適切な弁護士とのリレーションがないために、やむをえず顧問税理士が担わざるをえなくなっているなど深刻な状況です。

 

これからの士業は、待っていても仕事が来ることはありません。ITが人々の専門領域でのリテラシーを引き上げ、またプラットフォーム化が士業のマーケットをオープンにし、競争原理にさらされるようになりました。たとえば財務会計の世界では『freee』や『マネーフォワード』といったクラウドサービスが台頭し、税理士の仕事において欠かせない存在になりつつあります。自動化・人工知能化のトレンドを掴んでいる士業が力を持つ時代です。国内でもリーガルテックという言葉が聞こえるようになってきましたが、米国では既に、司法サービスを簡単かつ低価格で受けられる法律分野のEコマースを実現した『リーガル・ズーム』というサービスが普及しています。閉鎖的だった法律家の世界にも、市場の競争原理は待ったなしに流れ込んできています。弁護士のようなプロフェッショナルスキルは放っておけば時間とともに価値が減少していくため、積極的に新たな仕事を獲得して市場価値を上げ、個人指名で発注されるまでにスキルを磨き続けなければいけません。

サイトビジットでは、創業事業としては資格試験学習の効率化を実現すべく、オンライン資格試験予備校『資格スクエア』を手がけ、難関国家資格の学習を変革してきました。これからは新規事業として、試験合格者に対して求人情報を提供するプラットフォームを創っていく予定です。士業の世界をまたぐバーティカルな事業展開で、有資格者の業務やキャリアにおける価値ある情報を提供し続け、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上させていきたいと考えています。

日本型エリートこそ決断してやりきる経験を

開成高校の同期は四分の一ほどが医者になったのですが、医療への思いではなく、成績が良いから医者になるという意思決定をする者の多さには疑問を感じています。また、やる気や熱意はあるのに、経済的な理由などで挑戦に踏み切れない人が多いことにも問題意識がありました。事業を士業の資格試験にフォーカスしたのは、こうした問題意識に向き合う事業で、社会的なニーズも強いと感じた領域だからです。『資格スクエア』には、もっとキャリアを自由に選択でき、誇りを持って働く人を増やしたいという想いを込めました。キャリアを考える全ての士業従事者に寄り添うインフラとなることを目指しています。

東大生をはじめ日本型のエリートは、ローリスクな人生を歩むことを教育で叩き込まれるために、内側にこもりがちで同質性が高く、選択することをためらう傾向にあります。言われた通りに何かを目指すのは楽ですが、易きに流れず、何かを決断して選択し、それをやりきるという経験を積極的に積んでほしいと思います。優秀な人ほどチャレンジングな環境に身を置くべきです。それが21世紀に活躍する、強いこだわりと誇りを持ったプロフェッショナルの条件ではないでしょうか。

株式会社サイトビジット

Interviewee

鬼頭 政人 氏

きとう・まさと

株式会社サイトビジット

代表取締役

開成高校出身。東京大学法学部卒業後、司法試験に合格。石井法律事務所にて企業間紛争、民事再生、相続、離婚案件を手掛ける。その後株式会社産業革新機構の投資チームにおいて大型企業再編やベンチャー投資、中小企業投資に携わる。2014年1月、『資格スクエア』事業を開始。