人生とは、大陸を “鉄道で” 横断する旅である。

東京大学法学部在学中に司法試験に合格するも、卒業後は弁護士にならずにボストン コンサルティング グループへ入社。その後ハーバード大学経営大学院でMBAを取得し、起業家へ転身した岩瀬大輔氏は、これまで何を基準に進路を選択してきたのか。約100人の学生を前に語った、後悔しない選択のポイント、チャンスをものにする人の5つの特徴、そして、世界に出てから“覆された”という岩瀬氏の人生観とはーーー。

May, 12, 2017

ライフネット生命保険株式会社

岩瀬 大輔 氏

司法試験に合格するも、弁護士にはならず。

私は大学生のとき、ずっと弁護士になりたくて、ひたすら司法試験の勉強をしていました。ところが、試験に合格した後にぶらりと足を運んだインターンがきっかけで、急遽方向転換。インターン先のボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)で出逢った人たちに惹かれて“こんな風な人になりたいな。この人たちと一緒に働きたいな。”と思い始めたのです。それから選考に参加して。

最後は、帰国子女で、同じ大学・学部出身という、ほぼ同じ経歴を持つ先輩との出会いが決め手となり、私はBCGへの入社を決断しました。

周囲の反対をよそに、直感を信じた20代。

その後、私は数回転職をしました。どこにも落ち着かない当時の私のことを、先輩や友人達は “ポテンシャルは有るのに、もったいない” “何がしたいかわからないでフラフラしている” と言っていましたが、私は自分が正しいことをしている感覚がありましたし、今でも当時の決断を、後悔していません。直感を信じて正解だったと感じています。

このような経験から、私は周りの人が言うことに流されないで、自分が好感や憧れを強く抱ける人と働けるかどうか、そして自分の純粋な冒険心をくすぐられるか、直感的に挑戦したいと思えるかどうかをモノサシにしていいんじゃないかな、と思うようになりました。自分の感覚に素直になって、感性に従うことで、きっと上手くいくのではないでしょうか。

肩書無しで、自分を語れるか?

28歳からの二年間は、アメリカ・ボストンにあるハーバード大学経営大学院へ留学しました。それから私は、世界中から集まった仲間と学び、議論するようになり、いくつかの気付きを得ました。そのうちの一つが、日本社会では個々人が所属している組織や肩書に強く紐付けられていることへの気付きです。

日本人は、自己紹介をするときに「〇〇大学の~~」や「株式会社〇〇の~~」というように、所属組織や肩書を前置きする傾向がありますよね。この点、海外では全く異なり、名乗るときは“Hi, I`m Daisuke.”これだけです。

留学後も、ダボス会議のような世界の様々なところから人が集まる場に出向きましたが、そこでも所属企業や出身大学は人の評価とあまり関係がなかったと感じています。大切なのは「いい大学」を出たか、「大きな会社」に所属しているかではない。むしろ組織のバッジなしの状態で、自分が何者かを説明することができるか、そして、いかに面白い意見を伝えることができるかが肝なのです。

“自分の意見を言うこと”や、“発信する”ことは、若いころから訓練をされていないために、日本人は苦手にしている人が多いと感じます。

欧米の方は、あらゆる社会的イシューについて、議論し発言することに慣れていますが、これに比べて日本人は、そもそも社会的な問題に向き合い、深く考えた上で発言するという経験が圧倒的に不足しています。欧米の方が積極的に堂々と発言し、議論を引っ張っていくのに対して、日本人は消極的で、態度も弱々しく自信が無さそう。相手の目もまっすぐに見られない。本当は優秀なのに、もったいないな、と常々感じてきました。だから今学生のみなさんには、ぜひご自分の可能性と能力に自信を持って、若いうちから海外に出て、世界を舞台に積極的に発信していってほしいなと思っています。

「業界への恩返し」に共感し、30歳で起業。

次に、留学後なぜ起業したかについて、お話しましょう。

きっかけは、ブログでした。ある投資家の方が、私のブログを読んで、コンタクトをとってくださったのです。二度目にお会いした時、その方は保険業界での起業を勧めて来られました。私はそれまで、保険業界に関わることなんて考えたこともなかったのですが、“面白そうだな”と感じました。ただ、保険に詳しくなかったので、その投資家の方に、誰か詳しい人を紹介してほしいと頼みました。そこで紹介されたのが、ライフネット生命共同創業者であり、現・代表取締役会長の出口治明です。

当時、出口はこう言っていました。「生命保険はいつの時代も、健全な市民社会を支える役割を担ってきた。それがいつのまにか、保険金不払い問題などの影響で、社会からの信頼を失ってしまっている。この状況が、残念でたまらない。」と。

さらに、こんな夢を語っていました。「小さいかもしれないけど、とびっきりいい生命保険会社を創って、生命保険業界に競争をしかけたい。そうすれば、業界は活性化し、必ずよくなる。 そうすることが、30年にもわたり自分を育ててくれた生命保険業界、大好きだった生命保険業界に対する恩返しになる。」

出口の想いに、私は共感し、一緒に起業することにしました。こうして、雑居ビルのなかで、出口の頭の中にしかない妄想をコツコツ具現化していく日々が始まったのです。

9割が拒絶するとき、君はどうするか?

振り返ってみると、いつも私は、ふとした瞬間の人の言葉や突然の出逢いをきっかけに、大きな舵切りをしてきたように思います。

ある研究によれば、予想もしていなかったことが起きた時、8-9割の人は拒絶や防御をするそうなのですが、一方で1割の人は前向きな反応をすると言われています。私はこの1割の人間だったから、未知のものとの遭遇をチャンスだと捉えて、のめり込んで行きました。

このような、偶然の出逢いや出来事を活かすことの重要性は、例えばスタンフォード大学のJ. D. クランボルツ氏により “Planned Happenstance”(計画された偶然性)という言葉を通じて説かれています。セレンディピティと呼ばれる、偶然のチャンスを掴む力を花開かせられれば、舞い込んでくる様々な出来事をチャンスに変えることができると言われています。さらに、チャンスを掴む力がある人に共通した行動特性として、下記が挙げられています。

・好奇心(Curiosity)
・持続性(Persistence)
・柔軟性(Flexibility)
・楽観性(Optimism)
・冒険心(Risk Taking)


ぜひみなさんにも、いまの自分の世界観の小ささを謙虚に受け入れながら、予期せぬ出来事をチャンスに変えていってもらえたらと思っています。

人生は、大陸を鉄道で横断する旅のようなもの。

最後に、留学を機に覆された私の人生観と紐付けながら、みなさんの就職活動へのアドバイスをしたいと思います。

ハーバードに留学するまでは、いつも焦っていて、気持ちが不安定でした。早く司法試験に受かりたい。早く社会人になりたい。早くマネジャーになりたい。これはある意味 “アンビシャス” で、良い心構えとも捉えられますが、常に道の途中にいるような気がしたのです。

ところが留学を通じて、人生において大切なのは、何かを早く達成することではなく、その過程を愉しむことだと考えるように変わりました。

それは例えるならば、ヨーロッパの美しい土地を通る鉄道のように、心地よい空間をゆっくりと進んでいるようなイメージです。人生という旅では、どこかに早く到着することではなく、辿り着くまでの時間そのものが目的であって、ともすると見逃してしまうような素晴らしい風景を眺めながら、窓から入ってくる風や、たまたま居合わせた人との何気ない会話を愉しむことも大切なのかもしれない。こう考えるようになりました。

そして、みなさんが就職活動をする上でも、この考え方は参考にしていただけるのではないかなと思います。就職活動において、目的とするべきは内定では無いのかもしれません。結果だけに固執し、ゴールから緻密に逆算するのではなく、いろいろな人との出逢いや会話自体に価値を置きながら、自分自身について深く顧みる。そして “自分にしかできないことは何だろう?” という問いに真剣に向き合ってみる。そんなプロセス自体が大事なのではないでしょうか。

途中で少し辛いことがあったとしても、肩を落とさないように。ひとつひとつの過程を愉しみながら、自分だけが踏める轍を、じっくりと進んでいってください。

本記事は、2017年4月18日東京・青山にて開催されたイベント「VENTURE SUMMIT TOKYO」 ご登壇時の岩瀬大輔氏のスピーチ内容をもとに作成しています。

ライフネット生命保険株式会社

Interviewee

岩瀬 大輔 氏

いわせ・だいすけ

ライフネット生命保険株式会社

代表取締役社長

埼玉県生まれ。幼少期を英国で過ごす。東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院を上位5%の成績で修了。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。