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新卒3年目 “社長” が語る、起業家輩出企業のリアル

2014年に事業を開始し、日本で初めて革製品のカスタムオーダーサイトを開設して以後、数々のビジネスアワードを受賞しているジョッゴ株式会社。代表取締役社長を務めるのは、株式会社ボーダレス・ジャパン新卒三年目の高橋亮彦氏だ。同氏のような経営人材は、なぜこれほどのスピードで輩出されるのか。入社から現在までの軌跡を辿る。

Apr, 05, 2017

株式会社ボーダレス・ジャパン

高橋 亮彦 氏

-----新卒三年目で一事業会社の社長、というのは ボーダレス・ジャパンでは頻繁にあることなのでしょうか。

よくあることですね。もともと社会起業家志望者が多く集っていますし、入社する時点で、自分が解決したい社会課題を持っている人が多いので、経営人材が輩出される素地がそもそも存在する。さらに入社後は、それぞれが実現したい世界に近づくにはどうすればいいかを各人が考えて、それぞれの事業アイデアを実現させていきます。

-----すぐにボーダレス・ジャパンのグループ会社を設立するということでしょうか。

いえ、初めはビジネスの現場業務を一通り経験します。ボーダレス・ジャパンにおけるキャリアパスでは “業務力”というのが一つのキーワードでして、私でいえば製品の生産管理、検品、販売などの仕事を一巡しました。

ボーダレス・ジャパンでは、他の会社と比較してもかなりのスピードで、自分に任される業務範囲が広がっていきます。

私はまだ入社三年目なのですが、先ほど申し上げたように既にビジネスプロセスを一巡し、事業立上げに携わることができました。そして四年目に差し掛かる今、事業経営者としてグループ会社の社長に就くことになりました。

-----それは、最終的なゴールが事業経営であるということでしょうか。

そうですね、「事業経営」という枠組みにとらわれる必要はないかもしれませんが、少なくとも自分が何に向かいたい人なのかを自覚して、ゆくゆくは一事業を背負うという覚悟を持つことを、一人ひとりが期待されている会社だと思います。

反対に、一つの会社のなかで一律に順調に昇進するような人生を歩みたいなら、他の会社に行った方がよいのかもしれません。

養われているというレッテルを剥がしたい。

-----事業、起業、経営という言葉がたくさん出てきましたが、ボーダレス・ジャパンは“ソーシャルビジネス”とか“社会性”が特徴というイメージがあります。高橋さんにも何か、事業を通じて解決したい課題解決があるのでしょうか。

おっしゃる通り、“その事業の先に、どういう世界が待っているのか”は、ここではよく問われますね。私の場合は、障害者と健常者との間の壁を取っ払いたいという想いをずっと抱いています。

私自身は事故がきっかけで車イスに乗ることになった中途障害者なのですが、障害者になってから、健常者との間に壁を感じるようになりました。端的にいうと「健常者に養ってもらっているのが障害者である」という“社会の目”を感じるようになりました。事故以来、それまでとは何か別の、非常に生きにくい世界に来てしまった感覚があるんです。そしてこの現状をどうにかしたいと思って行動した先にボーダレス・ジャパンに辿り着きました。

つまり、私は「社会に貢献したい」とか「自分よりも誰かのために生きたい」とかいった、滅私奉公や利他主義に基づくモチベーションとはちょっと違う情熱を抱いているんです。純粋に、自分が今生きている世界が生きにくいと感じている。だから、私や私と同じ立場に置かれている人が、もっと生きやすい世界をつくりたい。そのために必要なことや事業を考えている人間です。

本質的に、健常者と対等な関係をつくりたい。

-----具体的には何を変えたいのでしょうか。

最初に現在健常者が抱いている障害者に対するイメージを象徴する出来事をお話しましょう。私の友人には、パチンコをしていたら「国からお金もらっているくせに遊んでんじゃねえよ」といった言葉を浴びせられた人もいます。彼は実際には働いている、れっきとした就労者だったのに。

このエピソードが示すように、精神的な障害から、重度・軽度の身体的障害まで様々な障害があるなかで、それを「障害者」と一括して捉えられてしまっていることや、この「障害者」という概念が、健常者にとっての実感値を伴わないまま一人歩きしているという問題が、まずあります。

さらに一方で、私達のことをよく知らないから、「おそらく相手(障害者)が最も失礼に感じないような」慎重な対応、過度な配慮をする健常者達がいて。障害者たちが本当は自分でできることも、他人がしてしまう環境に置かれてしまうことで、障害者を甘やかせてしまっている。これによって、だんだんと自立していない状態を当たり前と思ってしまう「障害者マインド」が形成されてしまうと思います。

これに加えて、少数派であり「異質な」存在である障害者を排除するような日本の教育にも問題を感じます。このように、変えなければいけないことは、多岐にわたって存在しています。

ただ、このなかで私が一番変えなければならないと思っているのは、障害者は健常者に「養われている」というイメージであり実態です。

いまの日本では、障害の程度に柔軟に対応しない、画一的な障害者枠の就労機会しか与えらずに、生活を保障される制度がある。このままでは障害者は養われている存在で居続けるし、どんな啓蒙活動がされても、本質的には健常者と対等になれません。

このような状況を変えるために、障害者も働けるような仕組み、そして障害者がもっと世の中に出ていく仕組みを作っていくことが必要なのです。

NPOでも、独立起業でも実現できないこと

-----いまおっしゃったような仕組みは、NPOでは構築できないのでしょうか。

NPOではエシカルな部分で人が足を止めて、お金(寄付金)を払われますよね。それは自分がつくりたい形とは違いますね。お金を出す人にとって、自分が寄付したお金がどこに使われたのかが詳細にはわからないですし、「障害者だから」助けるとか、お金を払うというのは、何か違和感があります。もちろん、NPOでしか実現できないことも、一般にはあるのでしょうけれど、自分がやりたいのはやはり、事業ですね。

想いだけ、で突っ走ってもジリ貧になる。

-----社会課題を解決するために、ひとりで起業してしまう人もいます。

一方でボーダレス・ジャパンの"グループ会社"を設立して社会起業家となるメリットというのはございますか。

極端な話し、能力がある人であれば一人で立ち上げてみては、と思いますね。私もボーダレス・ジャパンを知らなかったら、もしかしたら起業していたかもしれないと思いますよ。でも、おそらく失敗したんじゃないでしょうか。

ビジネスって、がむしゃらにすれば良いというものではないんです。想いだけて突っ走っても、ジリ貧になるのは目に見えている。もっと会社が成立するために必要なこととか、事業が成立・存続するためには何をするべきかとか、そういったポイントを抑えなければいけないと思います。

この点、ボーダレス・ジャパンでは、実際に事業を成功させている仲間が近くにいるから、事業経営のアドバイスもたくさんもらえますし、事業経営を任される時期も早いです。事業をつくって成長させるだけの人材になるために、必要な経験が積めますし、今の自分が事業を担う人間になるためには何が足りないのか、何が必要なのかを日々問われます。

3年間で気付かされた「相手を想う」ことの大切さ。

-----これから高橋さんは、一事業会社の社長として、事業をひっぱって行くことになるのですが、経営者に求められる最も大切な能力ってなんだと思いますか。

相手のマインドを読み解く力ですね。一つだけ挙げるとすれば。

相手のマインドを具体化、言語化できることは、ビジネスシーンにおいて仕事をもらうことや、自社の商品をお客さんに選んで、喜んでいただくために必要な第一歩です。

私は入社1年目に、ある革製品のバングラデシュ拠点の生産品質管理や在庫管理などを担当していたのですが、ある時、現地の人に製品の問題を指摘して、改善を要求したのに、一向に変わらなかったことがあったんです。そんな時に上司に言われた、「高橋、相手の状況は考えたか?」という言葉は、今でも忘れられません。

当時の私は、仲間と一緒に物事に取り組んでいる姿勢を見せることの大切さを知らなかったですし、現地の人の視点で物事を考えること、彼らの仕事の状況を慮ることを怠っていました。そのことに気付かされたのは、自分が大きく成長した瞬間だったなと思います。

-----最後にメッセージをお願いします。

まだまだ自分には足りないことがたくさんありますが、今後経営をするなかで培っていきたいですし、障害者が普通に働けて、もっと社会で活躍できるような世界をつくるために、今後も努力したいと思っています。

株式会社ボーダレス・ジャパン

Interviewee

高橋 亮彦 氏

たかはし・あきひこ

株式会社ボーダレス・ジャパン