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さらば帝国 ソフトウェアを媒介に、エコシステムで世界一へ

組織や集団の内部で情報を共有し、コミュニケーションができるソフトウェア(以下、グループウェア)を開発するサイボウズ。3名の技術者の手で創められ、現在700万人もの利用者を擁する同社は、いかにして成長を続けているのか。拡大の技法と、その根底をなす哲学を明るみに出す―。

Jan, 30, 2017

サイボウズ株式会社

青野 慶久 氏

―企業内・企業間のやり取りではいまだにe-mailが使われています。非効率で情報漏えいの危険と隣合わせのツールが使われ続けるのはなぜでしょう

確かにいまだに電子メールが世界的に標準的なビジネスツールです。米国はまだIT投資も日本より盛んで、私たちもビジネスのフィールドとして広げているところなのですが、日本はまだまだ立ち遅れている印象を抱いています。

立ち遅れた日本のIT投資、労働力減少が転機か

ただ、日本は労働力不足に直面して、効率化が急務となり、ビジネスのやり取りをクラウドで一元化することへの必要性が気付かれ始めています。私たちの会社のクライアントの中でも、人手不足の業界(小売業など)で特にニーズが高いことがこれを象徴していると言えるでしょう。世界的に見れば、そもそもスマホの発達・ネットワークの回線量の容量とスピードが上がることがチームワークインフラ構築に必要だった。今そのファクターが揃い、グループウェアが黎明期を迎えているところです。

―世界最大のIT業界リサーチ会社Gartnerのレポートにおいて、主要なエンタープライズ・ベンダーの一つとして日本企業で唯一ランキングに入っていましたね。今後はグループウェアを武器に世界のプラットフォーム構築を目指されているのでしょうか

そうですね、世界で戦う土俵には立ちました。ただ、「武器」「戦う」というのは語弊があるかもしれない。私たちにはそもそも「競合」という概念が無くて。

共鳴する世界観は、Linux

強制力を駆使した帝国型の戦法ではなく、私たちはいろんな人に参加してもらうこと(オープンソース)で自社サービスの価値を高めたい。マイクロソフトと対照的なLinuxさながら。そのためには私たち自身が、情報開示して、自社自体が多様性を認めなければいけないと思っています。

拘束ではなく自由意志でエコシステムを生成する

―とはいえ、他の会社と比較して感じる違いなどはあるでしょうか

日本のIT企業は受託型が一般的で、創りたいものをつくっている会社はそもそも少ないということが前提としてあります。その中で私たちは〝働き方や組織の在り方を良くすること〟のエキスパートとして、コンサルティングやアドバイスをするだけではなくてそれを可能とするツールをプロダクトアウト型で提案できることが強み。なお、ここでいう「エキスパート」とは、総合職だけではなくて開発者も含みます。ソフトの企画・開発・販売を通じて、社員みんなが人事制度に精通していきながら、変わる意志のある企業に、変わるためのきっかけを提供するのです。

―20年前からグループウェアに着目し、お客さまよりも前に変革の需要に気付いた。なぜ青野様は、先を見抜くことができるのでしょうか

いつも最初は小さな違和感だった気がします。新入社員として松下電工にいたとき、まだ何もできなかった自分は、近くにいる人の仕事を手伝おうと思った。

「隣の上司を手伝いたい」 始まりはささいな違和感だった

しかし上司は、とても忙しそうで、ほとんど席にもいなかった。手伝おうにも彼が何をしているのか分からなくて。〝スケジュールくらい分かればいいのにな〟と思いながら、ぼーっとしていたことがサイボウズの原点かもしれません。あのとき、もっとみんなが楽しく働く世界がありえるんじゃないかと、頭の中で幻想が弾けた。

私は、自分にできることが少ない分、自分がいる領域に関しては常に〝現状否定〟しています。このままで終わるはずがない、とね。前職時代も「その会議は本当に必要?」幼少期は「なぜ書ける漢字を何度も書かなければいかんの?」すごく理屈っぽくて面倒くさいやつでしたよ。ただこういった現状否定の意識って、後天的にも身に付けられると思います。少なくともサイボウズで働けば「訓練」を通じて未来を描く力が鍛えられます。

―最後に、経営において大切にしていることがあれば教えてください

目の前にいる、生身の一人ひとりが楽しいかどうか。あとそれが、社会にとって価値ある活動になっているかどうか。この二つが大事で、黒字とか赤字とかはその後ろ、という優先順位を固持しています。

33歳の時に上場企業の社長になって、最初は業績や売上を上げることに必死だったんです。でも「僕本当は何がやりたいんやろう」という問いが途中で私の足を止めた。

そうして、いいソフトをつくって世の中を楽しくしたいという今の事業の本質に気付けましたし、その本質に忠実に生きたいと思っています。

サイボウズの説明選考会

サイボウズ株式会社

Interviewee

青野 慶久 氏

あおの・よしひさ

サイボウズ株式会社

代表取締役社長

大阪大学工学部卒業後、松下電工株式会社(現・パナソニック)に入社。1997年8月にサイボウズを設立し、2005年より代表取締役社長に就任。2006年には一部上場を果たす。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーを務める。1971年生まれ。