• トップページ
  • 安寧のガラパゴスか決戦の先の世界一か〜 Sansanの挑戦 〜

安寧のガラパゴスか決戦の先の世界一か〜 Sansanの挑戦 〜

Jan, 17, 2017

Sansan株式会社

寺田 親弘 氏

日本不在の Gang of Four は必然か。Google会長Eric Schmidt氏が2011年「世界のテクノロジーを支配する四天王(Gang of Four)」に挙げたのは、世界50カ国超に17億人のユーザーを擁する Facebookをはじめとする、米国発祥の4社だ。日本企業は、1つも無い。

「〝カイゼン〟、〝コピー〟を得意とする日本人にイノベーションは生み出せない」と現状を肯定するための様々な説明がされる一方で「日本からも世界に通用するイノベーションを生み出せる」という強い確信のもと、今まさに海外展開へ舵切りを行う起業家がいる。Sansan代表取締役社長寺田親弘氏だ。

寺田氏の確信は何に基づき、世界へ駆け出す先にどのような景色を描いているのか。

未来は自分の手でつくる

―2015年にシンガポールへ拠点を広げ、グローバル展開を加速されています。究極的には何を目指しているのでしょうか

すごくシンプルに言うと、新しいあたり前をつくりたいんです。私たちが挑戦しなかったら生まれなかった、新しい常識を。例えば現在のスマホって、いまや誰もその便利さに驚いたりしないですよね。そして一部のお金持ちだけではなく、皆が使っている。我々にとって究極の目標って、そんなインフラをつくることなんです。

―「あたり前」って、時代とともに自然と変化していくとも思えるのですが〝寺田さんが〟あたり前をつくる理由って何でしょうか

それが私の信念だから、でしょうか。時代の風向きがこうだから自分たちは、というのではなく、自分たちが世の中を変えていきたいという想いはずっと抱いています。むしろ、こう考えないと運命に従属してしまう気がするんですよね。私は「思考に気をつけなさい」に始まるマザーテレサの言葉が好きなのですが、彼女はこの言葉を通じて「思考が運命を変える」と説くんです。運命に従属するか、意志を持って世界を変えようとするか。極端だと言われるかもしれませんが、私はそんな世界観を持っていて、後者の生き方をしたいと思っています。

“Business Card” Management?

―では「名刺をクラウド上でデジタル管理する」サービス『Sansan』『Eight』をつくられたのはなぜでしょうか

新社会人として商社で働き出した当初から、名刺の管理に対して課題を感じていたんです。名刺は世界中で使われていて、決して一時の「カードの渡し合い」じゃなくて、その後もビジネスにおける貴重な情報網を構成するものなんです。連絡先が書いてあるだけではなく、実際に相手と「出会った」というつながりの証でもあるからです。それなのに、いかんせん「紙」だから、すごく管理が不便で非効率的。自分自身どうにかしたいという課題を感じていたんです。

一方で、それはあらゆるビジネスパーソン共通の課題でもあり、紙の名刺は世界で100億枚以上流通していると言われている。そこに、挑戦に値する可能性を感じたのです。

もしこの課題を解決できれば、大きなインパクトを世界にもたらすことができる。そう確信してSansanを創めました。

―確信というのは、ニーズ・市場調査に基づくのでしょうか

いえ、需要や市場って、時にビジネスを見込む上で必要な観点だとは思いますが、私はそこまで重視していません。需要は自分で顕在化させるものだし、市場は自分たちで開拓するもの。そういう物の捉え方をします。例えば、テスラって「電気自動車市場」があってナンバーワンになったわけではないし、「スマホ市場」があったからAppleが成功した訳でもない。Appleがあったから市場が広がった。世界を変えてきたものって、基本的にゼロベースで生まれたと思うんです。

―現状に囚われない、ということでしょうか。それは常に意識されていますか

そうですね。先入観に囚われず、前のめりに物事の変化に適応し、変化を牽引していく姿勢は、私も会社も大切にしています。過去にこうした、今のルールがこうだから、と思考を固定するのではなく、未来に対して今何をしていくのかということに、フラットに切り替えしていくセンスを重視します。

安寧のガラパゴスか、 挑戦の先の世界一か 今が決戦前夜

―国内4000社(法人向け『Sansan』)、100万ユーザー(個人向け『Eight』)の導入実績を持ちながらもなお、世界を目指すのはなぜでしょうか

世界を変える新たな価値を生み出すことを目指しているからです。

15年前、私が商社にいた頃、日本の携帯は世界最高峰と言われていたんです。あのまま日本が世界のモバイル市場を席巻した可能性だってありえたにもかかわらず、日本の製品はガラパゴス化(独自の方向で発達し、国際基準から乖離)して、今では 〝ガラケー〟という自虐的名称で呼ばれてしまっています。

名刺管理サービスで世界一のSansanはいま、ガラパゴスになるか、世界のインフラになるかの端境にいると思うんです。誰も攻めてこないと安心し、国内で儲かることに満足するのではなく、勝負できるプロダクトを持っているからこそ、外へ出て挑戦したいんです。

―挑戦した先に、どのような世界を創りたいのでしょうか

私たちはミッションに 〝ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する〟ことを掲げています。これまで「管理」していた名刺情報を、これからはどうデータベースとしてビジネスに活用し、未来の新しい働き方をリードしていくかという未知の領域に入っていきます。

例えば、AIによって過去の名刺を起点としたあらゆる人脈情報から次に会うべき人を示してくれる。Sansanのサービスが名刺というビジネスプロフィールを通じたプラットフォームに進化し、ソーシャルなつながりがより加速される。

テクノロジーによって人々は本当に価値のあることだけに集中できるようになり、働くことはよりシンプルに変わる。 今まで 〝あたり前〟だったムダは 〝ありえない〟ものになる。

そうして、Sansanのサービスがビジネスのインフラとして世界中の働く人の日常風景になることを目指しています。

Sansan株式会社

Interviewee

寺田 親弘 氏

てらだ・ちかひろ

Sansan株式会社

代表取締役社長

慶應義塾大学卒業後、新卒で三井物産に入社。情報産業部門配属後、米シリコンバレーへの転勤等を経て、2007年同社を退職。4人の仲間とともにSansanを創業した。2011年、The Entrepreneurs Awards Japan U.S. Ambassador's Award(駐日米国大使賞) 受賞。