キャリアメイキングの落とし穴
人気が高い企業に入りたいと感じるのはいつの時代も同じです。僕もそうした典型的な学生でした。でも、人気企業に入るという優越感は、所詮、偏差値教育や受験戦争で上を目指すのと同じです。人と同じ行動をしても、見えない明日は見えてきません。
また、10年20年で社会はものすごく変わりますから、いま人気がある会社に入るのはとてもリスクが高いかもしれない。マスコミはピークのときに、「いい会社ですね」と言って取材をしますから、マスコミが取り上げるようになった時点で、その企業の後退が始まっていることもしばしばです。いま有名な会社は、それまでの時代環境の中で見事な適応を果たした会社であって、その人気は過去の栄光の残像かもしれないのです。
人気云々より、未来を創りだす躍動感が感じられる場所、働く人の目が輝いている場所、自分が音をたてて成長できるような場所に身をおくことが大切だと思います。でも、「3年間で最も成長できる会社に入ろう」という姿勢には賛同しません。キャリアも、リーダーシップと同じで、結果として出来上がるもの。素晴らしい社歴、肩書きを履歴書に列挙できても、本当のキャリアは人の評判で決まるものです。「あいつは、人の期待に応える信頼できる奴かどうか」という評価。それが人から人へと伝わって、一生ついてまわる僕らの履歴書となります。「手っ取り早く3年間で実力をつけて」という姿勢ではなく、一期一会で人に接し、その場その場で大きなものに挑んで、必ず人の期待に応えていく、超えていくという姿勢が不可欠ではないでしょうか。
エリートは挑戦する権利と義務を持つ
すさまじく変動する世界の中で、リスクをとって挑戦し、新しい時代を創りあげる立場にいるのがエリートです。エリートは、挑戦するにあたって、十分に発揮できる「大いなる力」を持つ人であり、同時に、その力を自分と人のために発揮することへの「大いなる責任」を自発的に感じることができる人です。人より恵まれた環境に育ち、人より良い教育を受けて、周囲から支援されて、色々なことに挑戦できるという自分に感謝し、自分より大きいものへの責任を引き受ける意識を持つことが、リーダーシップの原点です。
嘆かわしいことは、いまの一流大学や一流企業に入った人たちに、自分たちをエリートだと感じて、挑戦への権利と責任を感じている人があまりに少ないという事実です。そうした学歴・社歴エリートたちに限って、キャリア上の選択肢、給料、世俗的名誉など、打算と計算に流されている人が多いように思います。もちろん、人間誰しも計算はします。でも、計算ばかりしていると、見えない未来への挑戦は決してできません。見える現実と見えない未来を天秤にかければ、かならずリアルな現実の方に目が行くからです。
誰も自分をエリートだと思わず、誰も自分が持っている能力に対する感謝と、その感謝に応じた責任感を持たない国に未来はありません。高い教育を受けたものは、社会に対する責任を負い、未来に挑戦する権利を持つ。読者の皆さんに期待しています。
不可欠となる人間存在への理解
見えない未来を予測する最良の方法は、自らが創り出すことです。見えている1%から残りの見えない99%を創り出すには、パッチワークの知識や、付け焼刃の分析では役に立ちません。そこで大切となるのは、世界、歴史、人間を深く理解すること。人間の自由への欲望が、どこまで自由市場主義を浸透させ、グローバリゼーションを駆り立てるのか。人間誰もが代替可能な存在へとなり、人と人との絆が失われ、社会が過剰なまでに流動化する中で、人間が渇望するようになるのは何なのか?人間の行動の根本にあるもの、人間存在そのものを理解することが、未来への挑戦にとても大事です。大学時代に学ぶリベラルアーツは単なる教養なんかではなく、世の中の事象に対する深い洞察を磨くもの、つまりリーダーシップに不可欠なものです。僕は大学にいるときに、このことに気づかず、無為な4年間を過ごしました。かけがえのない時間を、大切にしてください。
特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL)とは
2001年設立の「場」型・「イニシャティブ」型教育機関。小林陽太郎氏、北城恪太郎氏をはじめとする財界のトップ、社会リーダー、経営プロフェッショナルなど、200名以上の個人に支えられ、活動を展開。自由と公序、私益と公益が両立する新しい経営社会像・企業像・組織像の実現にむけて自ら行動する、世界に誇れる日本の次世代リーダーの輩出を目指している。
1983年東京大学法学部卒、日本興業銀行入行。マサチューセッツ工科大学(MIT)より経営学修士号(MBA)、ハーバード大学より経営学博士号(DBA)を取得。ロンドン大学ビジネススクール助教授、インシアード経営大学院(フランス)助教授を歴任し、2000年に13 年ぶりに帰国。日本経済の停滞、社会の混迷に強い危惧を覚え、教職を捨て、仲間とともに、日本再生のための社会運動体としてISLを創設。独自の全人格リーダー教育プログラムの提供、スピリット溢れる場とコミュニティの運営、社会起業家の発掘・育成・支援といった活動を通じて、世界に貢献できる日本の実現に挑んでいる。著書に「リーダーシップの旅」(金井壽宏氏と共著 光文社新書)。過去インシアード経営大学院において、最優秀教授賞を3年連続受賞。